日曜夜9時、東京駅ホームはなぜ「恋人たちの舞台」になったのか――80~90年代「シンデレラ・エクスプレス」が描いた週末ドラマとは

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民営化直後のJR東海は知名度不足に直面した。週末の最終列車ホームを舞台に、年間65回放送のCMと駅ポスターで地域認知を急速に浸透させた戦略は、遠距離恋愛という共感演出とメディア連動を両立させ、都市と地方のブランド格差解消にも寄与した。

JRの知名度急上昇

 CM撮影は、列車の営業終了後の深夜、東京駅、名古屋駅、岐阜羽島駅で行われた。

 当時最新型の100系電車を数回往復させ、ホームの一部には布を敷き、スモークも発生させるなど、大掛かりな撮影となった。テレビCMと同時にポスター撮影も実施され、使用したのは100系X3編成である。

 CM放送により、恋人たちが最終列車のホームで別れを惜しむ姿がメディアで注目され、社会現象となった。駅ではポスターの盗難も相次ぎ、CM効果を裏付ける結果となった。

 この広告にJR東海が投じた予算は1億数千万円で、半分はテレビCMに充てられた。当時の宣伝費としては控えめで、CMの開始がちょうどお中元シーズンと重なったこともあり、東京では21日間に65回しか放送されなかった(『THE21』1987年9月号)。

 それにもかかわらず効果は圧倒的であった。元々CMのメインターゲットは20代前半の男女だったが、実際にはあらゆる年齢層に受け入れられた。結果、CMの目的のひとつであった会社名の浸透は十分に達成された。

 国鉄の民営化で誕生したJR各社は、地域によって知名度の浸透に苦慮していた。タクシーで「JRの○○駅」と伝えると、一瞬間があり「ああ、国鉄の」と聞き返されることも珍しくなく、この現象は1990年代になっても地方で続いていた。

 ところが「シンデレラ・エクスプレス」の宣伝が行われた地域では、瞬く間に「JR○○」という社名が浸透していった。

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