日曜夜9時、東京駅ホームはなぜ「恋人たちの舞台」になったのか――80~90年代「シンデレラ・エクスプレス」が描いた週末ドラマとは
民営化直後のJR東海は知名度不足に直面した。週末の最終列車ホームを舞台に、年間65回放送のCMと駅ポスターで地域認知を急速に浸透させた戦略は、遠距離恋愛という共感演出とメディア連動を両立させ、都市と地方のブランド格差解消にも寄与した。
シンデレラCM戦略

民営化とともに誕生したJR東海は、東海道新幹線という「ドル箱路線」を抱えていた。しかし、路線に安寧するだけではなく、企業としての知名度向上という新たな宣伝戦略が求められていた。
そこで、誕生したばかりのJR東海はロマンチックなイメージをテレビCMとして打ち出した。
舞台は夜の東京駅ホーム。恋人らしい若い男女が手を取り合い、別れを惜しむシーンから始まる。新幹線が走り出すと、男性を見送る女性の愁いを帯びた表情が映し出された。ナレーションは
「離れ離れに暮らす恋人たちが、週末を東京で過ごし、また離れ離れに……」
と続いた。駅構内には、同じ情景を描いたポスターが掲示された。窓を挟んで見つめ合う恋人たちの姿をメインに、キャッチコピー
「日曜夜9時、シンデレラたちの魔法がとける」
を入れ、CMの世界観を駅空間に持ち込んだ。CMの制作は電通・TYOが担当した。当時JR東海入社5年目の東京広報部社員で、後に名古屋ステーション開発社長となる坂田一広氏の実体験に基づくアイデアも盛り込まれた。
坂田は広島の彼女と長距離恋愛をしており、毎週末大阪や名古屋で会っていた。最終列車のホームで繰り広げられる恋人たちのドラマを、自らの経験をもとに企画書として提案し、採用された。
一方で、CMは電通の三浦武彦とTYOの早川和良が競合プレゼンで提案した案も採用されている。三浦は
「新幹線は(人と人が出会う、町と町を結ぶ)コミュニケーションメディアである」
というコンセプトのもと、日曜21時東京発の最終列車「ひかり」を舞台に遠距離恋愛物語のシナリオを描いた。