山手線の北側部分が、まるで「M」みたいな形になってるワケ
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山手線北側の謎線形

山手線の北側、池袋から田端までの区間には、奇妙な線形が見られる。一度南に下がり、まるで英語の「M」のようにくぼんでいるのだ。列車から眺めると、線路が丘や谷を縫うように走り、直線ではないことを実感できる。窓外には、切り通しのコンクリート壁に囲まれた場所や、谷戸の緑が広がる場所が交互に現れ、風景の変化が体感できる。沿線の町屋や小川がかつてどのように存在していたかを想像すると、設計者が地形と都市生活に配慮してルートを選んだ工夫が伝わってくる。
ヨドバシカメラのCMソングでは「まあるい 緑の山の手線~」と歌われていた。しかし、このくぼみを目の当たりにすると、「全然丸くない」と思わず突っ込みたくなるほどだ。列車の揺れに合わせ、線路の微妙な起伏や勾配も体感でき、地図上の線とは異なる、立体的な線形の実感がある。
地形図を見ると、この区間の大半は切り通しになっている。切り通しとは、丘や山を切り開いて道路や線路を通す工法であり、線路周囲の地形を人工的に整えた痕跡が見て取れる。また、この線形は谷戸の地形とも深く関係している。谷戸とは、丘陵地や山地の間にできた浅く狭い谷で、周囲を小さな丘に囲まれ、谷底には湧水や小川があることが多い。北側に回り込めば谷戸は比較的浅くなるのだが、線路はあえて南に下がるルートを通っている。これは、都市設計者が地形条件と技術制約を総合的に判断した結果であり、偶然ではない。線路の勾配や切り通しの位置は、列車運行の安全性や工事の難易度も考慮された、都市計画と技術の折衷の証でもある。
この路線は1903(明治36)年、当時の日本鉄道が開業させたもので、現・山手線の一部であり、東北本線や常磐線の前身でもある。歴史的事情と地形の制約が交錯した、都市鉄道設計の興味深い事例である。列車に乗る際や沿線を歩く際に、地形と都市設計の関係を想像すると、線路のM字形は路線図上の線ではなく、都市の成長と技術の挑戦を物語るものとして立ち上がる。