宇都宮LRT「500万人突破」が示す地方都市の逆襲──なぜ岐阜・京都で“路面電車復活”が急浮上したのか?
宇都宮ライトレールの成功が全国の地方都市に波及し、2040年までに那覇市や京都市でLRT導入が具体化している。人口減少・高齢化の中、交通網再編と都市再設計の切り札として、初年度500万人超の利用実績が示す多面的な経済効果と環境負荷軽減に期待が高まる。
再浮上するLRT構想の波紋

宇都宮LRTの成功を受け、各地でLRT導入の構想が再び動き始めている。岐阜県では2025年7月、知事がLRT導入の検討を公表し、10年後の開業を目標に掲げた。また、京都市では、京都商工会議所の「京都経済人会議」において、2040年までの導入構想が示された。いずれも、かつては路面電車を廃止した歴史を持つ都市である。それにもかかわらず、いま再びLRTの必要性が浮き彫りになっている。
これは流行でも、宇都宮の成功に便乗したものでもない。それぞれの都市が直面する、深刻な構造的課題への対応としてLRTが浮上している。
岐阜県では、中心市街地の空洞化が進み、交通弱者の増加も深刻化している。一方で、バス路線の維持は年々困難になっている。2005(平成17)年に名鉄岐阜市内線が全廃されて以降、県は公共交通の再編に取り組んできたが、都心と郊外をつなぐ新たな移動軸が必要とされていた。知事がLRT導入を明言した背景には、こうした地域構造の限界がある。
京都市も同様だ。年間約5000万人の観光客を抱える都市では、慢性的な交通渋滞が市民生活を圧迫している。とくに市街地中心部の混雑は深刻で、観光公害の要因ともされてきた。バスに過度に依存した交通構造では限界がある。LRTの導入は、混雑緩和と都心の回遊性向上を同時に実現する手段として、再び現実的な選択肢となりつつある。
さらに注目すべきは、制度と政策環境の変化である。2014年以降、都市再生特別措置法の改正が進み、国の主導によるLRT促進事業も始まった。導入にともなう制度的・財政的ハードルは着実に下がっている。LRTは「コンパクトシティ」政策との親和性が高く、交通施策ではなく、都市全体の構造転換を支える中核的なインフラとして位置づけられつつある。