熊本県、なぜ路線バス「共同経営」は失速したのか──2434万人で初の前年度割れ、制度限界と人口変動の深層とは
交通税導入と財源確保の現実

熊本のように共同経営に沿線地域行政が参画することには、筆者は一定の意義があると評価する。行政が公平な立場から共同経営を監視・支援することは重要だと判断している。
今後、路線バス事業に対する運賃や税金の負担論が浮上する可能性が高い。滋賀県で議論されている「交通税」の動きが全国各地に広がることも考えられる。交通税とは、公共交通の整備や維持に必要な財源を確保するために課される税金である。具体的には、バスや鉄道など公共交通機関の運営支援やインフラ整備、サービス向上のための財源として活用されることを目的としている。
利用者の支払意思や支出意思の調査、利用データの分析と解釈といったプロセスにおいても、公平な行政の役割が一層求められる。地域公共交通は単なる維持段階を超え、AIオンデマンドシステムなど持続可能な仕組みへの再定義が求められる局面にある。
・バス車両の更新
・デジタルシステム導入
・データ経営の強化
といった公的な戦略投資においても、行政の公正な立場は欠かせない。
理想的には、地域公共交通の刷新を公約に掲げるリーダーが登場し、そのもとで共同経営を支援する体制が整えば、地域公共交通は一本の方向へと進むだろう。しかし交通政策は票に結びつきにくく、現状は残念な面もある。だからこそ、地域行政の重要性を認識し、
「活躍できる行政職員の育成」
が期待される。総じて、利用者数の減少は単なる失敗ではないと筆者は考える。むしろ、制度の臨界点が早期に示されたともいえる。これを共同経営システムを再設計する好機と捉えるべきだ。
モータリゼーションやコロナ禍によるワークスタイルの変化、2024年問題、そして激しい人口減少が重なるなか、まさに転機を迎えている。だが、こうした環境変化に柔軟に対応することはバス事業者にとって苦手分野でもあった。問われているのは、利用者数だけではない。
「地域にとって守るべき公共交通とは何か」
という根本的な問い直しである。地域公共交通は、その地域の姿を映し出す鏡でもある。変化を嘆くのではなく、変化とどう向き合うかが求められている。変化にしっかり対応した地域の交通は、地域とそこに暮らす人々の生活を豊かにするだろう。
毛利元就の「三本の矢」のように、共同経営は知恵と力を結集できる強みを持つ。協働を促進し、地域ごとの公共交通の役割を再編集して、住民に寄与してほしいものである。