熊本県、なぜ路線バス「共同経営」は失速したのか──2434万人で初の前年度割れ、制度限界と人口変動の深層とは
2434万人の壁と課題分析

2025年6月23日、くまもと県民テレビなどは「県内の路線バス利用者数は年間2434万人、共同経営化後初めて前年度下回る」と報じた。前年度比で15万人の減少である。共同経営開始以来、初の目標未達(目標2677万人に対し実績2434万人)となった。この数字が問題なのは、
「新型コロナ禍後の一般的な回復傾向に逆行している点」
である。利用者減少の幅が大きいと解釈できる。
この減少には複数の要因が絡んでいる。まず、通学定期や高齢者パスの利用が飽和状態にあること。次に、沿線の総人口減少と若年層の免許取得率の高さだ。さらに、テレワークなど柔軟な働き方の定着による通勤パターンの変化や、徒歩・自転車への移動シフトも影響している。
新型コロナ禍を経てライフスタイルは変化した。景気も回復せず、企業は交通費削減の雇用体系を採用し始めている。観光利用も限界があり、変動要因が大きい。共同経営も社会変化に合わせて変化する必要がある。
ここで問いたいのは、設定された数値目標が現実的だったのかという点だ。熊本の共同経営では、公表記事からデータ経営の重視が明確に読み取れる。目標の2677万人は
「戦略的成長と防衛を両立させる数字」
だったのか。都市構造や人口構造の変化を経て、利用者数というKPI(重要業績評価指標))自体の再検討が必要になるはずだ。
柔軟に都市や人口の変化に対応できるモデリングやシミュレーションが、今後のデータ経営には求められる。筆者(西山敏樹、都市工学者)も当該分野の研究者として、AIを用いた利用者予測モデルやエビデンスベースの経営判断は時代の必然と考えている。ただし共同経営が進むとデータ量は膨大になり、事業評価が
「量的指標」
に偏りやすい。テレビの視聴率と視聴質の関係のように、質的評価や将来予測を軽視しないよう、共同経営には警鐘を鳴らしたい。