「夜行列車消滅 = 正常な進化」は本当か? 新幹線礼賛論に異議あり! 鉄道オタクに決定的に欠けた「利用者視点」とは【リレー連載】ビーフという作法(5)
移動の質を高める選択肢
結論からいえば、我々の未来の生活を見据え、「あるべき姿」から夜行列車の形を議論し、定めることが重要だ。想像で構わないから、未来の理想的な姿から逆算して夜行列車を考えるべきである。まさに英国発の
「スペキュラティブ・デザイン」(現実の技術や社会の枠組みを超えて、未来や理想的な社会を想像し、そのビジョンを具現化するデザインのアプローチ)
のアプローチが示唆するように、可能性を広げて議論を進めるべきだ。
筆者が「夜行列車現実論」で取り上げたように、夜行列車の復活に向けた選択肢は多岐にわたる。これを不可能だと考えることはできない。歴史を踏まえたうえで、
・寝台列車と座席車の混結
・鈍行で安価な夜行座席列車
・貨物輸送と夜行列車の混結
・上下分離方式と夜行専用鉄道会社の新設
など、さまざまな提案を行ってきた。さらには、「WEST EXPRESS 銀河」のような旧車を改装して新しいビジネスを展開する方法もある。これらはハード面、ソフト面を問わず、移動の「質」を重視した提案である。
過去にマスコミュニケーションの研究で、テレビの視聴率だけでなく「視聴質」も測るべきだという議論があったように、鉄道の世界でも、速さという量的側面ではなく、
「生活者の心を満たしているかどうか」
という質的な評価が必要な時期に来ている。実際、鉄道事業者の一部はすでにその重要性に気づき、観光列車を走らせている。筆者も多くのクルーズトレインや観光列車に乗車し、車内スタッフによるもてなしや、地域の人々との交流、高速鉄道では見過ごしがちな美しい風景を目にすることで、ウェルビーイングが確実に向上することを実感している。新幹線の流れを「正常な進化」とするのではなく、むしろ
「選択肢の縮小」
と捉えるべきだ。このように、視聴率と視聴質の議論に見られるように、評価の軸を変えた議論を行うことが、今後求められているのだ。