「夜行列車消滅 = 正常な進化」は本当か? 新幹線礼賛論に異議あり! 鉄道オタクに決定的に欠けた「利用者視点」とは【リレー連載】ビーフという作法(5)

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夜行列車の消失は「自然な進化」ではない。新幹線や航空機の発展に圧されるなか、依然として需要がある夜行列車の役割を再評価し、公共交通としての進化を求める声が高まっている。非日常的な移動体験や時間の有効活用を重視したサービスの進化が、今こそ必要とされている。

宿泊費制限が浮き彫りにする旅行需要

サンライズ号(画像:写真AC)
サンライズ号(画像:写真AC)

「ビーフ」とは、ヒップホップ文化における対立や競争を指す。1984年、ウェンディーズのCMで使われたキャッチコピー「Where’s the beef?(ビーフはどこだ?)」は相手を挑発する表現として広まり、その後ヒップホップの世界でも定着した。本連載「ビーフという作法」はその精神にならい、モビリティ業界のさまざまな問題やアプローチについて率直に議論する場を提供する。他メディアの記事に敬意を払いながらも、建設的な批判を通じて業界全体の成長と発展に寄与することを目指す。

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 2025年3月6日に、「夜行列車はなぜなくなってしまったのか? 新幹線網の速達性向上で夜行需要が喪失した」という記事が配信された。この記事はフリーライターの小林拓矢氏によるものである。

 筆者(北條慶太、交通経済ライター)は、当媒体で感傷的な視点やノスタルジーを排し、経済的合理性と社会的課題をもとに夜行列車の可能性を探る連載「夜行列車現実論」を7回にわたって執筆してきた(2025年3月4日終了)。この立場から、今回は小林氏の記事に対し、批判的な視点を示す。

 財務省は2025年4月から、国家公務員の出張時の宿泊費を都道府県別に定めて公表することとなる。この変更で問題となるのは、課長級職員でさえ、東京での出張の場合、上限宿泊費が1泊1万9000円、愛知が1万1000円、大阪が1万3000円、福岡が1万8000円に設定されている点だ。

 これらの都道府県は観光需要が高く、インバウンド需要の影響もあって観光地としての人気を集めている。そのため、出張に便利な場所ほど1泊2万円を超えるケースが都市部では多く見られる。また、経営が厳しい企業では、全国一律で1泊1万円を下回ることも少なくない。多くの企業は出張にかかる交通費や宿泊費を抑えることを重視しており、このような背景が国内旅行ニーズに影響を与えている。

 こうした状況を踏まえて、筆者は連載を通じて夜行列車の実現可能性を探求してきた。本稿では、夜行列車の消滅が果たしてどのように正常な進化と見なされるべきかについて、改めて考察を加えていく。

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