東洋の精神性とアドベンチャーツーリズム【短期連載】なぜいま岡倉天心なのか(3)

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アドベンチャー・ツーリズムが注目を集めるなか、岡倉天心が守ろうとした日本の文化財、特に「茶の湯」が再評価されている。この旅行スタイルでは、伝統文化の深い精神性を体験でき、地域の自然や文化を学びながら自己変革を促すことができる。また、観光業の成長にも貢献しており、2023年にはアドベンチャー・ツーリズム市場が76兆円規模を超えた。日本では金沢や東北海道などで新たな文化体験が提供され、外国人観光客の関心を集めている。

日本文化体験、インバウンドの新潮流

岡倉天心の著作『茶の本』(画像:岩波書店)
岡倉天心の著作『茶の本』(画像:岩波書店)

 アドベンチャー・ツーリズムは、旅行者がアクティビティや自然、文化を体験することで、地域の独自性や自然、伝統文化に触れながら自己成長や変革を目指す旅行のスタイルだ。この旅行形態は、主に次の三つの要素で成り立っている:

・アクティビティ体験:ハイキング、登山、サイクリング、カヤックなどのアクティブな体験。
・自然体験:未開の自然や特定の景観を楽しむ活動(例:エコツーリズム、野生動物観察)。
・文化体験:地元の人々と交流したり、地域の伝統や習慣を学んだりする活動。

 アドベンチャー・ツーリズムは単なる観光地巡りにとどまらず、旅行者が地域の文化や環境に積極的に関わり、深い体験を通じて自己変革を促進することを重視している。

 さて、天心は著書『茶の本』のなかで、庭園、陶器、織物などを例に挙げ、

「茶の宗匠たちの芸術に対する貢献は実に多方面にわたっていた」
「芸術のいかなる方面にも、茶の宗匠がその天才の跡をのこしていないところはない」

と強調した(村岡博訳)。そして、

「美を友として世を送った人のみが麗しい往生をすることができる。大宗匠たちの臨終はその生涯と同様に絶妙都雅なものであった。彼らは常に宇宙の大調和と和しようと努め、いつでも冥土へ行くの覚悟をしていた。利休の『最後の茶の湯』は悲壮の極として永久にかがやくであろう」(同)

と述べている。

 クレソン(東京都中央区)が運営するサイト「MOTENAS JAPAN」は、茶道体験が外国人に人気な理由として、

「日本文化を総合的に体験できる」
「日本特有の美意識『わび・さび』を実感できる」
「『おもてなし』の真髄を体験できる」
「『抹茶(Matcha)』が世界中でスタンダードになっている」

ことを挙げている。

 インバウンドの大きな柱になると期待されるアドベンチャー・ツーリズムにおいて、茶の湯をはじめとした東洋の精神性は重要なコンテンツとして位置づけられているのだ。

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