文学散歩の魅力とは何か? 今でも読み継がれる岡山出身「内田百閒」の足跡を辿る【連載】移動と文化の交差点(9)
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内田百閒は、戦後の文学散歩の先駆者であり、『阿房列車』で無目的な鉄道旅を楽しんだ作家だ。彼は岡山を愛し、故郷の風景や記憶を大切にしていた。その足跡をたどることで、文学の魅力を再発見できる。文学散歩はコンテンツツーリズムの原点ともいえ、多くの人々が文学に興味を持つきっかけになることが期待される。
内田百閒の魅力

内田百閒(うちだひゃっけん、1889~1971年)という作家がいた。近代文学があまり読まれなくなっているなかで、太宰治などと同じく読み継がれている珍しい作家だ。
夏目漱石の弟子であり、芥川龍之介とも深い親交があった。芥川は百閒の『冥途』(1922年)がもっと評価されるべきだといい、三島由紀夫は
「現代随一の文章家」
と評したこともある。
百閒の作品は一般的に随筆や紀行文がよく読まれているが、小説にも独特の世界観がある。特に『冥途』では、夢のなかの世界の再現ともいえる不可思議さを示している。文学散歩としては、備仲臣道(びんなかしげみち)の『内田百閒文学散歩』(皓星社、2013年)や、岡山に特化した岡将男の『岡山の内田百閒』(日本文教出版岡山、1989年)がある。
これらを参考にして、筆者(増淵敏之、文化地理学者)は8月上旬に岡山を訪れた。文学散歩は
「コンテンツツーリズム(映画、文学、音楽、アートなどのコンテンツに関連した場所やイベントを訪れることを楽しむ旅行)」
の一環でもある。コンテンツツーリズムは
・文学作品に登場する場所を巡って作者に共感するアプローチ
・作者のゆかりの場所や足跡を訪れてその偉業をしのぶアプローチ
に分けられる。今回は後者の要素が強いかもしれない。