「運転しかできないくせに」 タクシードライバーを平気で“職業差別”する人たちに欠けた現状認識力、彼らはエッセンシャルワーカーである

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タクシー運転手は過酷な労働環境で働いている。長時間労働と低賃金。十分な休日もない。にもかかわらず、彼らの社会的地位は高くない。インターネット上では、この職業を軽蔑する声さえ上がっている。

日本版ライドシェアへの懸念

タクシー(画像:写真AC)
タクシー(画像:写真AC)

 さらに問題なのは、他の輸送・運輸業従事者と比べても、タクシー運転手の賃金が著しく低いことだ。

 例えば、大型トラックの運転手は年収が464万2400円、中小型トラックは433万7400円と、400万円を優に超える。バスの運転手は405万5300円だ。ところがタクシー運転手は、わずか280万5100円と、比較対象のなかで最低の水準なのである。

 つまり、現在でもタクシー運転手は長時間過酷な労働を強いられ、他の運輸労働者に比べて著しく低い賃金しか支払われていないのである。この現実は、青木氏が20年前に指摘した業界の構造的問題がいまだに解決されていないことを明確に示している。

 加えて近年、タクシー業界を取り巻く環境は、ますます厳しさを増している。自家用車の普及に加え、ライドシェアサービスの登場が、業界に大きな影響を与えている。しかし、日本におけるライドシェアの導入は、欧米と比べて特殊な形となった。

 政府は、ライドシェア解禁の条件として、既存のタクシー会社が雇用し、運行管理する形での導入を求めたのである。その結果、タクシー会社は、ライドシェア用に新たな人材を雇用せざるを得なくなった。だが、厳しい労働条件では、優秀な人材の確保は難しい。結果として、十分な教育を受けていない運転手を雇用せざるを得ない状況に追い込まれているのが実情だ。

 つまり、日本版ライドシェアの導入は、利用者の安全・安心への懸念を高めるとともに、タクシー運転手の

「社会的地位をさらに下げかねない」

側面がある。諸外国の状況を見れば、ライドシェア運転手による接客トラブルや事件が発生する可能性は十分にある。それによって、タクシー業界全体の信頼が揺らぐリスクは小さくない。

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