「運転しかできないくせに」 タクシードライバーを平気で“職業差別”する人たちに欠けた現状認識力、彼らはエッセンシャルワーカーである

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タクシー運転手は過酷な労働環境で働いている。長時間労働と低賃金。十分な休日もない。にもかかわらず、彼らの社会的地位は高くない。インターネット上では、この職業を軽蔑する声さえ上がっている。

労働環境改善の難しさ

タクシー(画像:写真AC)
タクシー(画像:写真AC)

 こうして、雲助表現を巡る一連の騒動に一応の決着がついた形となったが、タクシー業界の人々のなかには、運転手に対する差別意識の根絶にはほど遠いという思いを抱く者も少なくなかった。

 実際、タクシー業界内部からは、今回の問題に対する異なる見解も示されている。『朝日新聞』1999年11月3日付朝刊では、当時、運賃の値下げで話題になっていたエムケイ(京都府京都市)のオーナー・青木定雄氏(2017年没)が、雲助発言に抗議するタクシー業界を批判する意見を述べている。

 記事によれば、青木氏は11月2日の記者会見で、「(裁判官の発言は)経営者が乗務員の社会的地位を高める努力を怠ってきた結果だ」と指摘。その上で、

「業界全体が、事件を起こした当事者として『雲助発言』を謙虚に受け止め、猛省すべきだ」

と述べ、抗議一辺倒の業界の姿勢を批判したのである。

 青木氏は、差別的な雲助発言の背景には、業界の

「長年の怠慢」

があると指摘した。単に裁判官の失言を批判するだけでは、問題の本質的な解決にはつながらない。業界全体が自らの体質を見つめ直し、改革に向けて動き出すことが求められていることを主張したのである。

 しかし、それから20年以上が経過した現在も、タクシー運転手の労働環境や社会的地位は、なかなか改善されていない。全国ハイヤー・タクシー連合会の調査によると、2021年のタクシー運転手の平均年齢は60.7歳と高齢化が進み、若者の新規就労者は非常に少ない。20代のタクシー運転手の平均月収は21万7100円にとどまり、全産業平均の27万6800円と比べて約6万円も低い水準だ。

 年間賃金で比較しても、タクシー運転手の推計額は280万4000円と、全産業平均の489万3100円から大きく下回る。その格差は実に208万9100円にも上り、前年よりさらに21万2400円も拡大している。

 こうした低賃金に加え、労働時間も改善されていない。2021年6月の調査では、タクシー運転手の平均労働時間は176時間と、依然として長時間労働が常態化しているのだ。

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