「転勤」はもはや時代遅れ? 終身雇用崩壊で露呈したモーレツ社員のホンネ、リモワ普及でとどめ刺された昭和・平成の残渣とは
戦後の日本人とその労働形態
JR東海が1987(昭和62)年から展開したテレビCM「シンデレラエクスプレス」は、世相を反映した名CMとして歴史に残る。
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テレビCMの舞台は夜の東京駅のホーム。若い恋人同士が手をつなぎ、別れを惜しんでいる。そして、新幹線が走りだす。若い女性が憂いを帯びた表情で彼を見送り、ナレーションが続く――。
「離れ離れに暮らす恋人たちが、週末を東京で過ごし、また離れ離れに……」
民営化で誕生したばかりのJR東海は、このCMで社名を広めた。
映画の男女のように、転勤で遠距離恋愛を余儀なくされるカップルが多かったからこそ、このCMが大衆の心をつかんだことは想像に難くない。
高度成長期以降、日本では企業が社員に転勤を命ずるのが当たり前だった。しかし、状況は大きく変わった。雇用制度の変化によって転勤が嫌われるようになり、テレワークの普及によって転勤そのものを過去のものとみなす風潮が強まった。
戦後、日本国憲法の下で労働基本権が確立された。労働基本権とは
・団結権(団結する権利)
・団体交渉権(使用者と団体交渉する権利)
・団体行動権、争議権(ストライキなどの団体行動をする権利)
である。労働者の権利は憲法で守られ、一度就職すれば、よほどのことがない限り雇用を維持することが当たり前となった。
一方、高度成長期には、多くの企業が全国に拠点を広げるようになった。その結果、日本の企業は労働者の雇用をできるだけ長く維持するようになった。その代償として、経営状況に応じて従業員を異動させる強い人事権を持つ労使間の認識が確立された。
そのため、業績が悪化しても、簡単に解雇されずに雇用を継続する見返りに、会社から命じられた異動に応じることが不文律となった。