自動運転バスは「横に動くエレベータ」 茨城県境町 日本唯一の定常運行で掴んだ効果と課題
なぜ「自動運転バス」なのか
公共機関の維持が全国的に課題となっている中、茨城県南部の境町が全国で初めて自動運転バスを公道上で定常運行させてから10か月が経った。全国的にはほとんどが期間限定の実証実験レベルという中、定常運行することで改めて見えてきたことも少なくないという。境町での今後の方向性も含め、自動運転バスの未来を探った。
「この事業はいわば『横に動くエレベータ』。エレベータはたいてい無料で乗れる。この事業はそれと同じ発想で準備した」
2020年1月、東京都内で開かれた発表会の席上、境町の橋本正裕町長はこう述べた。境町は首都圏近郊にありながら、町内には鉄道の駅がない。実質的な最寄りは東武動物公園駅(埼玉県宮代町)だが、路線バスで40分ほどかかるという。そのため、町民は普段の足をマイカーに頼らざるを得ない状況にある。
しかし、町民の高齢化が進んでいる事情は境町も変わらない。それに伴って増加する免許返納者の足をどう確保するかは悩ましい問題となっており、一方で公共交通機関を増やそうにも慢性的なドライバー不足が立ちふさがる。境町が自動運転バスを導入した背景は、こうした課題解決を図る一つの方法としてだったのだ。
見逃せないのは「無料で乗れるエレベータと同じ発想で準備した」という橋本町長の発言だ。自動運転バスがエレベータとするなら、利用料は無料で提供されなければならない。さらに町長は「将来的には町内で5路線まで拡大し、この運行に地元のバス会社などが参画してもらえるよう働きかけていく」とし、「国に対しては補助金申請をしたところだが、これが認められない場合でもこの事業は継続していく」とも語った。町民がいつでも気軽に利用できる環境を提供するという境町の基本姿勢がここにあるといって良いだろう。
実はこれまで境町では圏央道を活用した公共交通網(高速バスなど)の整備や拠点整備を積極的に推進して来ており、その結果、人口減少に歯止めがかかりつつあるという。境町としては、この流れを自動運転バスによって引き継ぎ、高速バスで訪れた観光客などがスムーズに自動運転バスに乗り換えて町内を回遊できるようにしようとの目論見もある。これがさらなる人口の増加、ひいては地域活性化の促進につながることを期待しているのだ。