自動運転バスは「横に動くエレベータ」 茨城県境町 日本唯一の定常運行で掴んだ効果と課題
ノロノロだけど渋滞しない? 定常運行で分かったこと
今回の事業は、自動運転事業の運行管理を推進するボードリー(BOLDLY)と、輸入商社マクニカの協力により実現した。自動運転バスはフランスのナビヤ(Navya)製「ナビヤ・アルマ」で、これまでもボードリーが自動運転の実証実験で実績を積んできた車両と同型車だ。境町ではこれを3台購入し、5年間分の予算として5億2000万円を計上。ボードリーとは運行管理やそれに伴う人件費を含むパッケージで契約した。
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人口約2万4000人の境町にとって、この5億2000万円は決して小さい額ではない。しかし、橋本町長によれば、その予算は「根回しすることなく満場一致で可決された」という。つまり、冒頭で述べた課題はそれだけ深刻で、それを解決するためにも、町としてこの自動運転バスの導入は受け入れやすい案件だったともいえるだろう。
その境町が次なるステップとしたのが、自動運転バスの運行エリア拡大である。2020年11月のスタート段階では運行範囲を5kmとしていたが、それを早くも2021年7月の発表では4倍となる約20kmに拡大するとしたのだ。この中には大型商業施設や病院、さらには高速バスの発着場も含まれる。さらに住民からの多数の要望に応え、運行日も平日だけでなく、土休日も加えた。今後はオンデマンド運行を組み入れる計画で、その時はバス3台をフル活用することでLINEでの予約や、バスをその都度呼び出せるスマートバス停の設置も計画しているという。
では、自動運転バスの定常運行を通して見えてきたものは何か。
「10か月にわたる自動運転バスの運行経験は何ものにも代えがたい経験になった」と話すのは、ボードリー市場創生部渉外課の中島真之介氏だ。実は自動運転バスの運行管理を定常運行で経験している会社は日本ではボードリーだけ。
「期間限定の実証実験なら何とか回すことだけを考えれば良いが、定常運行となると様々なエラーに対して迅速に対処しなければならない。遠隔監視しながらトラブルが発生すれば現場に駆け付ける人や、点検する人などその一つ一つがノウハウになった」(中島氏)
その中島氏が10か月を振り返って予想以上の反応だったと話すのは、「運行を始めると地元の方から多くの協力が得られ、思った以上に円滑な運行ができている」ことだった。ナビヤ・アルマは域内を最高20km/hで走るが、そのスピードは制限速度を下回っており、当然ながら後続車の動きに滞りが発生する。そのままバス停で停止すれば進路を妨げることにもなるが、実際は大きな混雑や渋滞にはつながっていないという。
その理由の一つが、自動運転バスに対する町民の理解が進んでいることだ。自動運転バスの運行がスタートしたのを契機に路上駐車する車両が減り、その上でいくつかの停留所では店舗用駐車場の一部を無料で提供してくれている。つまり、低速走行によって後続車に滞りが出ても、この場所に入って待機することで滞りの解消につながるわけだ。中島氏は「自動運転バスを運行するにあたっては、この(待避)場所を確保することが何よりも大事ということを思い知った」とも話す。