戦車の高性能化を支えたのは「航空機技術」だった! ミリオタ以外も知っておくべき、教養としての技術史
徒歩スピードと大差無かった「戦車」
現代、「戦車」と呼ばれている実用機動兵器のルーツは第1次世界大戦時に登場した英国の「マザー」ことマークIとされている。
マークIの性能は、約28tの車両重量に対してエンジン出力は105hp。最高速度は6km/h弱と人間の歩くスピードと大差無かった。一言で言ってしまえば鈍重、これが当時の限界だったというわけである。ここでは、車両重量に対するエンジン出力の比を記憶のなかにとどめておいてほしい。
この機動性の低さは運用現場からは問題点として指摘されたこともあり、第1次世界大戦末期には車体を大幅に小型化し重量を減らしたフランスのルノーFT-17が登場する。この戦車の車両重量は約6.5t、エンジン出力は39hp。オフロードでの最高速度はマークIよりは多少ましな8km/h程度というものだった。ただし整備された路上ではもう少しスピードが出せたと思われる。ここでも車両重量とエンジン出力の比を記憶しておいていただきたい。
この辺りから戦車はその重量、すなわち装甲の厚さを重視するか、ある程度防御性能には目をつぶって、その代わりに機動性を重視するかというふたつの方向性が生じることとなる。
そして1931年、米国でクリスティM1931という試作戦車が登場する。車両重量は約10t。大口径転輪(下部車輪)とコイルスプリングでつられた動きの良いシンプルなトレーリングアームサスペンションというメカニズムは当時の戦車には見られなかった構造だった。驚くべきはそ、のエンジン出力で当時としては極めてパワフルだった400hpの航空機用エンジン「リバティ」が採用されていたのである。
クリスティM1931の最高速度は整備された路面では60km/h以上。不整地路面でも40km/h以上を記録したと言われた。さらにこの車両は履帯を外して車輪のみでの走行も可能という装輪装甲車としての運用も可能であり、その状態では100km/h前後という驚異的なスピードを記録した。車両重量10tに対してエンジン出力は400hp。これもまた重要な数字である。