日本ではなぜ「外国人トラックドライバー」が制限されているのか? 慢性的な人材不足に逆行、そんな業界に未来はあるのか

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経済産業省の調査によると、2050年までに輸送・機械運転従事者は「14%」増加する。しかし同業界ではまとまった人数の外国人材を確保できていない。未来はあるのか。

他国の外国人トラックドライバーの語学支援の事例

トラック(画像:写真AC)
トラック(画像:写真AC)

 最後に、こういった語学力の育成研修というテーマに関して、他国の事例を紹介しよう。

 スウェーデンは、労働人口に占める移民の割合がおよそ10%と、移民が大いに活躍している国のひとつだが、自治体とともに、移民のための「業種別・スウェーデン語」支援プログラムを運営している。受講者の移民は無料で学習ができる。

 このプログラムを通して、受講者は自身の専門とする業種のスウェーデン語(業務で必要となる専門用語、専門的表現)が学べるのだが、実はおよそ10あるコースのうち、ひとつがトラックドライバーの移民向けのプログラムなのだ。

 約半年間にわたり、トラックドライバーの資格を有する移民たちは、この語学学習プログラムを受講し、スウェーデンという外国における道路貨物運送業務に関して、さまざまな語学的支援を受けることができる。こうして自身の業務に直結する語学力向上のための専門的支援を公的機関から受けたあと、移民ドライバーたちはスウェーデン各地で活躍している。

 一方、日本はどうだろうか。外国人に対する日本語教育については、やっと2019年に「日本語教育の推進に関する法律」ができたばかりで、この6条に掲げられている「事業者の責務」、すなわち自社で雇用した外国人スタッフおよびその家族に対する、日本語学習の支援の企業側の努力義務についても、多くの外国人雇用企業がいまだ認識していないのが現状ではないだろうか。

 ましてや、この分野の支援、

・語学力の研修育成
・社内言語整備
・社内の日本人社員に対するコミュニケーション研修

などについて、同じく日本語学習の支援の責務を負う国や自治体側がどこまで担当し、どこからが業界の責任範囲であり、どこまでを各雇用企業が担うのか、そういった具体的な議論も、国内のほとんどの業種でなされていない。果たして、このような環境未整備の現状で、この国は世界的な外国人材の獲得競争に勝てるのだろうか。

 ここまで、欧米諸国の事例などを参考にしながら、日本において運輸業で外国人トラックドライバーの活躍が大きく制限されている理由について検討してきた。本稿執筆段階では、外国人トラックドライバーの大幅な活躍は期待できそうにない。しかし現在、技術を有する外国人材は世界で争奪戦となっている上、今後ますますその傾向が顕著になるであろうことを考えると、今後、国内で議論が少しでも進み、日本での就労を目指す外国人材の人たち、そして彼らとともに働き日本経済を支える運輸業の人たち、双方が幸せになる可能性について、少しでも現実的な選択肢が見えてくるなら、筆者としてこんなにうれしいことはない。

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