「おもてなし」の限界――インバウンド消費9.5兆円が隠す「深刻な観光公害」、資産の安売りを断つ「容量経営」の必然とは
インバウンド4270万人、消費額9.5兆円。活況の裏で、日本は無形の社会資本を切り崩す「消耗戦」に陥っている。政府は対策地域を100カ所へ倍増するが、課題は規模ではなく有限な資源を適正な対価で管理する体制の確立だ。おもてなしの幻想を脱し、データと価格による強固な収益体系へ転換できるか。国家の命運を占う。
真の転換点

政府が掲げる「対策地域を2倍に増やす」という目標は、方向性としては妥当である。しかし、この数値を達成しただけで質的な向上につながると考えるのは楽観的すぎる。真の転換は、日本が観光を、際限のない奉仕を前提とした「歓待の文化」から、限られた資源を管理する「産業」として位置づけられるかどうかにかかっている。
注目すべき動向は、入域や料金の規制を裏付ける制度の整備、地方の二次交通への実質的な投資額、そして高い支払意欲を持つ層の割合という三つの指標に集約される。これらが改善されなければ、「量から質へ」という言葉は実態をともなわず、再び客数という数字を追う従来の政策の繰り返しに終わる。
最終的に問われるのは、自国の文化や自然、聖域に適正な価値を認め、相応の価格をつけることへの心理的抵抗を克服できるかである。姫路城が市民以外の入城料を2500円に引き上げたように、各地の主体が不当に安売りせず、地域の性質に合わない需要を断る判断を下せるかが成否を左右する。
観光大国としての真の評価は、受け入れた人数ではなく、毅然として拒否した客数とその理由の正当性によって決まる時代が訪れている。