「オラオラ顔で威圧される……」 巨大化するフロントグリル、なぜ自動車メーカーは美学を捨てて拡大するのか?

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世界86か国で中国ブランドが前年比18%増の1971万台を記録。巨大化するフロントグリルは、嗜好と市場戦略を映し、欧州・日本メーカーの存続戦略を如実に示す。

グローバル市場の構造変化と今後の展望

中国乗用車のメーカー・ブランド国籍別市場シェア(暦年推移)(画像:中国汽車工業協会(2018年まで)、乗用車市場信息聯席会(2019年以降)の発表を基にジェトロ作成)
中国乗用車のメーカー・ブランド国籍別市場シェア(暦年推移)(画像:中国汽車工業協会(2018年まで)、乗用車市場信息聯席会(2019年以降)の発表を基にジェトロ作成)

 2024年、世界86か国での自動車販売を見ると、中国系ブランドの台数は前年比18.0%増の1971万台となり、グローバル市場における存在感が一段と鮮明になった。この流れのなかで、欧州や日本の既存メーカーが中国市場で一定の地位を保とうとする場合、現地の嗜好に沿った形状を採用することが、企業の戦略として避けられない課題となっている。

 中国の乗用車市場情報聯席会が2025年1月に発表した分析では、同年の乗用車販売台数は前年比3.8%増の2374万4740台となり、中国系メーカーは12.0%増の1550万5977台を販売したと報告されている。数字は市場全体での影響力の拡大を裏付けており、既存メーカーの戦略は、単なるデザイン上の選択では済まされない現実を示す。

 日本メーカーにとっては、現地嗜好への適合が生き残りの条件であると同時に、歴史ある意匠を際立たせ、名門ブランドとしての格位を視覚的に示す手段でもある。新興勢力には持ち得ない過去の蓄積を、巨大な記号として提示することで、ブランドの正統性を強調するわけだ。

 ただし、巨大グリルに対する評価は分かれる。BMWの“豚鼻”と評される造形はSNSでしばしば議論になり、

「ブランドらしさが損なわれた」

という声もある。一方で、未来的と捉える層も存在し、好みは二分される。しかし企業にとって八方美人的な対応は、収益を最大化する上ではむしろ障害となる。批判を覚悟の上で特定市場にかじを切る判断は、利益追求という観点で合理的であり、一貫性をもった戦略といえる。

 展望として、BMWは2025年のIAAモビリティで新世代のデザイン「ノイエクラッセ」を披露し、スリムなキドニーグリルへの回帰を示した。しかし、デザイン責任者は依然として大型グリルの需要が特定地域で根強いことを指摘しており、今後は車種や市場ごとに多様なサイズを用意する方針を示している。欧州の伝統的顧客層と新興国の富裕層、相容れない嗜好を持つふたつの市場を分けて対応することが、利益最大化に直結するわけだ。

 こうしてフロントグリルの巨大化は、グローバル市場の構造変化、技術の進展、そして厳格化する安全規制への対応が重なり合った結果である。美醜の議論を越えた先には、競争の激化する市場で生き残るため、ブランドが選んだ視覚的権威の拡張という、生存戦略があるだけだ。

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