「オラオラ顔で威圧される……」 巨大化するフロントグリル、なぜ自動車メーカーは美学を捨てて拡大するのか?
視認性とブランド想起という戦略的資産

フロントグリルの大型化は、中国という世界最大の市場における消費者の好みと深く結びついている。中国では、大きなグリルが高級感や力強さの象徴とみなされ、車の存在感や迫力が購入の判断に直結する傾向がある。この傾向は単なる好みではなく、他者に対する社会的な優位性を示す手段として、実利的な価値を持って機能している。
市場規模の数字も、この現象を裏付ける。中国自動車工業協会の統計によれば、2025年の自動車販売は前年比9.4%増の3440万台に達し、17年連続で世界一を維持した。新エネルギー車は前年比28.2%増の1649万台で、販売全体に占める割合は47.9%に上る。こうした巨大市場で、中国ブランドのシェアが急速に伸びるなか、外資系メーカーが競争力を保つには、現地消費者の嗜好に応じたデザインを採用するしかない。
加えて、スマートフォンの普及が、この傾向を後押しした。広告やSNS上の小さな画面で、ブランドを瞬時に識別させる必要が生まれたためだ。高コントラストで強調されたフロントフェイスは、低解像度の画面でも一目でブランドを認識させる記号として機能し、消費者の注意を奪う手段となる。
BMWのデザイン責任者、エイドリアン・ファン・ホーイドンク氏も、大型グリルは中国など特定地域で人気があると指摘しており、特定市場の需要に応えることがグローバル戦略上、避けられない選択となっている。
こうした戦略は製品にも具体的に現れている。BMW 7シリーズのマイナーチェンジでは、先代モデルに比べて40%ワイド化した「キドニーグリル」を採用した。スリムなLEDヘッドライトとの対比を強め、フロント全体を50mm拡大することで、路上での存在感を強く打ち出している。バックミラーに映るたびに他車に圧迫感を与えるデザインは、所有者にとって階層的な優越感をともなう価値となり、ブランド資産として積み上げられていく。