「オラオラ顔で威圧される……」 巨大化するフロントグリル、なぜ自動車メーカーは美学を捨てて拡大するのか?

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世界86か国で中国ブランドが前年比18%増の1971万台を記録。巨大化するフロントグリルは、嗜好と市場戦略を映し、欧州・日本メーカーの存続戦略を如実に示す。

安全規制と技術進化がもたらした設計の自由度

大きいフロントグリルが特徴的なBMW「iX」(画像:BMW)
大きいフロントグリルが特徴的なBMW「iX」(画像:BMW)

 フロントグリルの大型化には、法規制への対応も大きな要因として働いている。2005(平成17)年から国土交通省は、歩行者の頭部保護を目的とした基準を段階的に導入した。自動車と歩行者が衝突した際、頭部への衝撃を減らすために、ボンネットに一定の衝撃緩和性能を持たせることが求められている。

 さらに2023年には基準が改正され、前面ガラスも試験対象に加わった。ボンネットと前面ガラスで構成される試験エリアのうち、三分の二以上で所定の頭部障害基準「HIC1000」を満たすことが義務付けられ、新型車は2024年7月、継続生産車は2025年7月から適用される。

 こうした基準の強化は、車両前面に一定の厚みをもたらし、見た目にも鈍重さを感じさせる制約となった。メーカーはこの制約を、大型グリルで覆うことで補っている。結果として、法規制による形状の制限が、重厚で力強い印象として読み替えられる。構造上の弱点を外観上の魅力に転換する手法が、大型グリル採用の後押しになっているといえる。

 同時に、先進運転支援システムの普及も、グリルの拡大を促す要因だ。初期のセンサーは大きく、車種によってはエンブレムの裏に隠す形で中央に配置されることが多かった。複雑なセンサー類をまとめつつ、デザインの整合性を保つには、広いグリル面積が便利な収容スペースとなる。

 さらに電気自動車(EV)の普及は、造形の自由度を広げた。BMWのフルEV「iX」では、グリルはもはや空気取り入れ口ではなく、センサーやカメラを内蔵する「インテリジェント・パネル」として機能する。冷却という本来の役割を失ったグリルをあえて強調することで、内燃機関時代の力強さへの信頼感を、モーター駆動車でも視覚的に補完する狙いがある。こうしてグリルは、機能と心理的価値を兼ね備えた新しい時代の象徴となっている。

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