「世界2位の線路網」「支出は欧州最下位」スペイン高速鉄道、相次ぐ事故が示した“拡張優先”の代償

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2026年1月、スペインで2件の鉄道事故が相次ぎ、死者47人超、負傷者150人超に。高速鉄道の利用倍増とインフラ維持費の不足が重なり、安全管理の限界が露呈した事態である。

積み重なってきた問題、そして2026年1月

ストライキのイメージ(画像:Pexels)
ストライキのイメージ(画像:Pexels)

 SEMAFがストライキを呼びかけるに至った背景には、いくつかの問題が重なっている。現場では運転士の労働環境に対する不安が根強く、あわせて鉄道インフラの安全性そのものに疑問が向けられてきた。とりわけカタルーニャ州で起きた事故でふたりの運転士が命を落としたことは、事態を決定的にした出来事だったと受け止められている。

 これに加え、鉄道事故が長年にわたり繰り返されてきたこと、運転士側から提出されていた安全に関する報告が国によって顧みられてこなかった経緯も重なった。そうした積み重ねの中で、国営の鉄道インフラに対する信頼が大きく損なわれた点も今回の動きにつながったとみられる。

 過去を振り返ると、2013年には北西部ガリシア州で高速列車の大規模な脱線事故が起きている。この事故では少なくとも80人が死亡し、140人が負傷するという深刻な結果を招いた。運転中、指令部との連絡に気を取られた運転士が制限速度が時速80kmの急カーブを時速およそ190kmで通過したことが直接の原因とされた。

 ただし現場の線路には当時、列車の速度を監視し制御する仕組みが整えられていなかったことも後に明らかになっている。その結果、ADIFの当時の社長を含む関係者3人が安全対策を怠ったとして刑事責任を問われる事態に発展した。この事故は運転士側とADIFの双方で安全への配慮が欠けていたことを示す例といえる。

 こうした速度管理の仕組みが十分に行き渡らなかった背景には、鉄道インフラの維持管理が限界に近づくなかでも高速鉄道網の新規建設を急いできた事情がある。脱線事故の後も、同社は安全性を踏まえた日常的な手入れより新路線の拡張を優先し続けてきた。その結果として2026年1月18日と20日に起きた事故へとつながった可能性は否定できない。

 今後、スペインの国営鉄道事業を担う責任者には事故の原因や講じられてきた安全対策だけでなく、鉄道インフラの維持管理に関する情報を包括的かつ具体的に明らかにする姿勢が求められる。SEMAFに対し事業の安全性や透明性、そして信頼性を示すことが不可欠だ。そのうえで保守に充てる費用の割合をEUの主要国と同等、あるいはそれ以上に引き上げる政策を見直すのか。

 日本の事例のように費用を抑えながら安全を保つ仕組みの開発を進めるのか――こうした選択をめぐる議論を、これ以上先送りできない段階に来ている。

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