「テスラは高嶺の花になりました」 BYD、補助金対象外でも「前年比5倍」――英国EV市場を席巻した根本理由とは
英国のEV市場は2025年、前年比24%増の約47万台と急成長を遂げた。しかし、ZEV義務や補助金政策の影響で実需の熱量は必ずしもともなっておらず、中間所得層の購入ハードルは依然として高い。こうした環境下、中国のBYDは価格と性能を両立した実用EVで台頭。政策の理想と生活者の現実の隔たりが浮き彫りになる中、既存メーカーはプレミアム領域に封じ込められ、市場の構造自体が大きく揺らぎつつある。
数字が映す回復と、その裏側の齟齬

英国自動車工業会(SMMT)の集計によれば、2025年の英国乗用車市場は前年比3.5%増の約202万台となり、コロナ禍以降で初めて200万台を超えた。西欧全体の伸び率が1.7%にとどまるなか、英国は主要5か国のなかでもスペインに次ぐ水準にある。数字だけを追えば、市場はようやく息を吹き返したように見える。
内訳を見ると、電気自動車(EV)は前年比23.9%増の約47万台、プラグインハイブリッド車(PHV)は34.7%増の約23万台だった。両者を合わせた比率は35%に達し、電動化は確かに進んでいる。ただ、この動きが消費者側の熱量を反映したものかといえば、判断は簡単ではない。
背景にあるのは、ゼロエミッション車(ZEV)義務化をめぐるメーカー側の事情だ。規制を満たせなければ罰金が科される。その回避を意識した供給が、市場に強く押し出されている面は否めない。販売台数が伸びている一方で、需要が自然に膨らんでいるとはいい切れない理由がここにある。
象徴的なのが、中国の比亜迪(BYD)の存在感だ。2025年の販売台数は
「前年の約5倍」
にあたる5万1000台に達し、市場シェアは2.5%。テスラを上回った。この結果は、性能やブランド価値を前面に出す既存メーカーのEVと、価格や使い勝手を重視する消費者の感覚との間に、無視できない隔たりが生じていることを示している。
英国政府は2030年のエンジン車販売禁止、2035年のZEV化を掲げている。しかし2025年時点でのEV比率は2割強にとどまる。掲げられた目標が遠景としては理解できても、物価高と実質所得の圧迫に直面する家計にとって、その道筋は現実味を欠く。数字が示す回復の裏側で、政策が描く理想と生活者の感覚とのずれは、次第に表に出始めている。