新東名「最後の25km」が秘める1.2兆円効果――延期を乗り越え高松トンネルが挑む地質との闘い

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新東名高速道路の全線開通は、東名高速の慢性的渋滞解消と物流効率化に直結する。未開通の約25km区間が開通すれば、東名区間の渋滞損失時間は年間で数百時間削減され、経済効果は約1.2兆円に達すると試算される。山岳地帯の高松トンネルなど難工事を抱えつつも、建設は着実に進行中で、災害時の代替ルート確保や沿線製造業・物流拠点へのアクセス向上など、多方面での効果が期待される。全線開通は地域経済の新たな起爆剤となる。

代替ルート整備で物流利便性向上

敦賀駅に停まる北陸新幹線かがやき(画像:写真AC)
敦賀駅に停まる北陸新幹線かがやき(画像:写真AC)

 他地域の新路線開通事例を見ると、その効果の大きさがよくわかる。西日本の大都市近郊を通る中国自動車道(中国道)は、兵庫県の宝塚IC~西宮北IC、宝塚東・宝塚西トンネル周辺で連日慢性的な渋滞が発生していた。私も何度か通行したが、東名高速に匹敵する深刻な混雑だった。

 この中国道に変化が訪れたのは、新名神高速道路の開通だ。2017年12月に高槻JCT~川西IC、2018年3月に川西IC~神戸JCTが開通し、名神~中国・四国方面への代替ルートが誕生した。

 新名神開通前後で、名神・中国道の交通量と渋滞回数を比較すると、1日平均の交通量は約9万8000台から6万6000台に減少し、年間渋滞回数は1040回から410回に減った。交通量は約3割、渋滞は約6割減少し、利用者の利便性は格段に向上した。行き先や状況に応じてルートを選択できる選択肢が増えたのも大きな成果だ。

 鉄道でも新路線の開業による効果が見られる。北陸新幹線は2024年3月、金沢駅~敦賀駅間が開業し、東京~敦賀を最速3時間8分で結ぶことが可能となった。駅開業にともない、敦賀の知名度向上も期待されている。こうした成功事例は、新東名の未開通区間開通による効果を考えるうえでも参考になる。

 北陸新幹線の敦賀駅延伸も容易ではなかった。最大の難所は福井県南越前町と敦賀市にまたがる新北陸トンネルの工事である。全長約20kmに及ぶこのトンネルは、開通時には日本で6番目の長さを誇った。2014年に工事が始まったが、地盤が想像以上に軟弱で、日本有数の豪雪地域という条件も重なり、工事は難航した。それでも2020年7月には貫通し、無事に開業を迎えた。

 北陸新幹線開業後、福井県の観光来訪者は2024年度に前年比112.8%と増加し、都道府県別でトップとなった。さらに、北陸新幹線延伸により福井県では年間約309億円の経済波及効果があると試算されている。

 新東名についても、全線開通による効果は非常に大きい。静岡県の浜松いなさJCT~豊田東JCT区間が2016年2月に開通した際には、東名の該当区間の渋滞回数が約9割減少した。2012年に新東名が開通した静岡県内では、年間の経済波及効果が約819億円にのぼると試算されている。これらの実例から、新東名全線開通時の経済・物流への影響は計り知れない規模であることがうかがえる。

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