新東名「最後の25km」が秘める1.2兆円効果――延期を乗り越え高松トンネルが挑む地質との闘い
東名沿線物流効率の革新と波及

新東名の未開通区間が開通すれば、その影響は多方面に及ぶ――。
なかでも最大の効果は、東名の慢性的渋滞ポイントを避けられることだ。平成31年から令和元年にかけて、東名の該当区間の渋滞損失時間をみると、上り線の御殿場IC~大井松田ICで105時間(全国6位)、下り線の大井松田IC~御殿場ICで87時間(全国7位)、下り線の秦野中井IC~大井松田ICで58時間(全国16位)となっており、膨大な時間が渋滞で失われている現状がある。
NEXCO中日本の2016年度データによれば、新東名未開通区間が開通すれば、走行時間短縮による経済効果だけでも
「約1.21兆円」
と推計される。この数値が示すように、効果は極めて大きい。
さらに、東名や新東名では大型トラックの走行台数が他路線より圧倒的に多い。実際、仕事とプライベートで年間約6万kmを走る私(都野塚也、ドライブライター)も、東名と新東名の物流密度の高さを実感する。未開通区間の開通は、物流効率の向上にも直結する。
沿道の製造業の規模も大きな背景となる。2014(平成26)年の都道府県別製造品出荷額では、愛知県が43.8兆円(全国1位)、神奈川県が17.7兆円(全国2位)、静岡県が16.0兆円(全国4位)であり、世界的自動車メーカーをはじめ、多くの製造業が東名・新東名沿線に集積している。こうした地域経済を支える交通インフラとして、新東名開通の意義は極めて大きい。
新東名全線開通は、物流と防災の両面でも大きな影響を与える。首都圏では羽田空港や成田空港、東京港や横浜港、静岡県では静岡空港や清水港、愛知県では中部空港や名古屋港など、多くの物流拠点が存在する。新東名開通により、これら製造業や物流拠点へのアクセスが向上し、経済効果の拡大が期待される。
医療面でも意義は大きい。未開通区間が開通すれば、高度救急医療施設から15分圏内に入る人口が約3万人増加する。沿道に住む住民だけでなく、滞在中に緊急搬送が必要となった場合でも、迅速な医療提供が可能となる。
防災の観点でも、新東名は重要な役割を果たす。全線開通により、東名と新東名で二重のネットワークが確保され、リダンダンシー(代替機能)機能が向上する。沿道地域では南海トラフ地震の発生が懸念されており、地震時にも安全なルート確保が求められる高速道路ネットワーク整備が進むことになる。