「マニュアルのEV」は本当に不可能なのか? 絶滅寸前1%市場に挑むトヨタの勝算

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世界のEV販売は2023年に約1380万台、前年比35%増と加速するなか、MT車は国内市場シェア約1%にまで後退。効率重視のEVにMTは不利とされるが、トヨタやレクサスは疑似変速やV10音再現で“走る楽しさ”の再生を模索している。

効率化と運転体験のせめぎ合い

未来のEVのイメージ図(画像:写真AC)
未来のEVのイメージ図(画像:写真AC)

 技術的には可能でも、MTを搭載したEVの市販化には複数の現実的な壁がある。物理的なMTは機械損失が大きく、EV本来の高効率性を損なう恐れがある。多くの市販EVは単速固定ギアを採用しており、複数ギア化で航続距離が悪化する可能性も指摘されている。

 採算性の課題も重い。MT搭載車の市場シェアは約1%に過ぎず、疑似MTや複雑な挙動再現システムの開発コストを回収するのは難しい。さらに先進運転支援システム(ADAS)との統合も進んでいない。

・低速オートクルーズ
・ロースピードフォロウィング

との両立は技術的に未対応だ。自動運転との相性も悪い。MT操作は人間主導のため、自動ブレーキ介入時にエンストや自然停止を再現するのが難しい。レベル4以上の自動走行との両立は厳しいといえる。

 こうした現実を踏まえると、EVにMTを搭載する意義は乏しい。トヨタやレクサスの疑似MTシステムは技術的には興味深いが、少数派ユーザー向けのニッチな領域にとどまる見通しだ。

 自動車産業全体は効率と環境性能を重視し、電動化とシンプルなドライブトレインによるコスト・エネルギー最適化を志向している。EV用トランスミッション市場は2024年に約1132億ドルとされ、2032年まで年平均12.2%成長が予測されるが、その多くは単速や軽量構造だ。

 EVの普及と効率化は運転体験を質的に変えつつある。一方で、MTの魂を受け継ぐ技術も芽生えている。もし将来MT需要が高まれば、効率を犠牲にしたMT搭載EVが市場に登場する可能性も残る。EV時代のMTの行方は今後も注視すべきだ。

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