「自衛隊に入ればこの世は天国」 防衛省のPRソングとしても秀逸? 1969年・高田渡「自衛隊に入ろう」を考える
1969年に発表された高田渡の「自衛隊に入ろう」は、当時の自衛隊勧誘の実情を皮肉を込めて描いた異色の楽曲だ。高度成長期の混沌と反戦運動のなかで生まれ、複雑な歴史背景とともに今なお響きを持つこの曲は、国防や自己責任といった現代的課題にも通底する。
風刺が伝わらなかった歌

1969(昭和44)年12月、URCレコードから1枚のシングル盤が発売された。フォークシンガー・高田渡の「自衛隊に入ろう」である。メロディはピート・シーガーの「アンドーラ」を使用し、日本の街頭で実際に聞かれた自衛隊の勧誘文句をそのまま歌詞に載せた異色のポップソングだった。なお、この曲は同年4月発売のアルバム『高田渡/五つの赤い風船』に先行収録されている。
後に防衛庁(現・防衛省)から
「自衛隊PRソング」
としてのオファーを受けたという逸話がある。1968年にTBSの番組で放映された際、防衛庁から依頼があったとされる。この曲の風刺的な意図は十分に伝わらなかったのだ。
「みなさん方の中に 自衛隊に入りたい人はいませんか」
「ひとはたあげたい人はいませんか 自衛隊じゃ 人材もとめてます」
1969年、日本はすでに戦後の瓦礫を踏み越え、高度経済成長の坂道を駆け上がっていた。東京オリンピック(1964年)から5年が経過し、新幹線と高速道路は地方と首都を結び、日本万国博覧会(1970年)の準備が着々と進む。戦後生まれの若者たちは、戦争を知らず、しかし冷戦の空気のなかで「国防」「安全保障」という言葉に現実的な輪郭を見出せぬまま育っていた。
その一方、ベトナム戦争は泥沼化し、日本の大学では反戦・反体制を掲げる学生運動がピークを迎えていた。東大闘争は安田講堂の攻防戦へと発展し、各大学でも封鎖・占拠・機動隊の導入が日常化。メディアでは連日「暴力学生」と「過激派」の映像が流され、一般市民の共感は徐々に引きつつあった。
そんな時代に、「自衛隊に入ろう」はリリースされた。