なぜ横浜・野毛は「若者が殺到する街」になったのか? オシャレ再開発はもうウンザリ? 築古物件が育む600軒の多様性が生んだ「街の若返り」経済学とは
横浜・野毛地区は約600軒の飲食店がひしめき、来街者の約32%が20代以下と若年層に支持されている。低家賃と駅近の利便性が、個人店や実験的店舗の参入を促進。再開発エリアと異なる多様性を背景に、若者の都市消費行動の変化を支える構造的な若返りを実現している。
検証3「家賃の構造的変数と都市空間の残存価値」

野毛地区に多く見られる築古物件は、従来の不動産市場では価値が低く評価されがちだった。だが2010年代に入ると、リノベーションによって独自の価値を加え、新たな需要を掘り起こす動きが広がった。特に若年層を中心に、再開発で整えられた均質な空間よりも、築古物件が持つ素材としての面白さや、物語性に魅力を感じる傾向が強まっている。
野毛は、そうした価値観を如実に体現するエリアである。低家賃を背景に、実験的な事業や文化活動の拠点として再評価が進んでいる。
こうした動きは、都市空間における「ほつれ」の存在と深く関わっている。ここでいうほつれとは、用途が明確に定まっていない曖昧な空間や、都市計画から取りこぼされた隙間のようなエリアを指す。
多くの再開発は、こうした曖昧さを排除しようとする。しかし、空間のほつれは、予期せぬ創造や実験性を許容する土壌となる。小規模店舗が独自のコンセプトで出店したり、既存建物を柔軟に改装したりすることが可能となり、これが若者たちが求める本物や個性につながっている。
再開発されたエリアでは、営業時間や用途まで厳密に管理されがちで、結果的に地域の画一化を招く。一方で、野毛のような旧来の街では、そうした制約が少なく、営業時間の柔軟な設定なども可能だ。効率性には劣るかもしれないが、多様なライフスタイルに応える包容力がある。それが、野毛の都市としての魅力を支える重要な要素となっている。