なぜ横浜・野毛は「若者が殺到する街」になったのか? オシャレ再開発はもうウンザリ? 築古物件が育む600軒の多様性が生んだ「街の若返り」経済学とは
横浜・野毛地区は約600軒の飲食店がひしめき、来街者の約32%が20代以下と若年層に支持されている。低家賃と駅近の利便性が、個人店や実験的店舗の参入を促進。再開発エリアと異なる多様性を背景に、若者の都市消費行動の変化を支える構造的な若返りを実現している。
検証1「都市再開発vs場末のリアリティ」

みなとみらい駅周辺の店舗賃料は、中~高価格帯に集中し、安価な物件はほとんど存在しない。出店には一定の資本力と計画性が求められ、大手企業やチェーン店が主導する傾向が強い。比較として再開発が進む二子玉川駅のデータを見ると、以下のとおりである。
平均坪単価は2万6606円、最高坪単価は5万881円、最低坪単価は7824円。一番多い階層は地上1階で、2022年の平均坪単価は2万7608円だった。価格帯の分布では、20~40万円未満が43.3%と最多で、40~60万円未満が36.7%、60万円以上の高額帯も一部存在する。
二子玉川駅周辺の物件は地上階に集中し、高単価テナント誘致を前提とした構造が明確だ。みなとみらいと同様に、選ばれた資本だけが参入できる都市空間が形成されており、偶発的な出店や個人の実験的店舗の参入余地は極めて小さい。
再開発都市はしばしば「設計された居場所感」を提供する。景観や動線、テナント構成まで計画され、美しさ・利便性・安全性が最大化された均質な空間が整備される。一方で、その空間は利用者の行動や体験を枠内に規定し、偶発性や自由な解釈を受け入れにくい面がある。
これに対し、野毛は戦後の混乱期から歴史的に形成された場末の空間だ。予定調和はなく、若年層が求める本物志向や偶然の発見を提供している。
現代の都市開発では、「オシャレさ」や「エモさ」がブランド消費と結びつき、空間にふさわしくないものは排除される傾向にある。しかし野毛は、こうした路線に乗らず敷居の低さを保ち続けた。それが現在の独自の魅力となっている。