率直に問う 電動キックボードは「原付扱い」に戻すべき?――違反2.5万件が暴く都市の秩序崩壊危機
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2023年の道路交通法改正で電動キックボードの免許不要化が進む一方、交通違反は1年で2万件超に達した。利便性拡大の影で公共秩序の維持は危機に瀕し、制度設計の根本的欠陥が露呈している現状を分析する。
自由と責任の非対称
徒歩、自転車、公共交通、そして自動車。それぞれの移動手段には、法的な責任と空間の取り扱い方に違いがある。免許制度はその違いを可視化し、運転者に必要な判断能力の水準を求める機能を担ってきた。これを撤廃したことで、自由な移動を求める利用者と、公共空間の管理責任を持つ行政の間に、リスクと責任の非対称が発生した。
この構造では、事故や混乱のコストは社会全体に分散される一方で、利用者側には
「自己制御の仕組み」
が存在しない。免許を不要とすることで新規参入を促進した結果、交通秩序の維持に必要なコストは、結果として自治体や警察に転嫁される。運用の現場は、その矛盾の帳尻合わせに追われている。
歩道と車道の間を高速移動するモビリティが法の保護の下にある場合、必要となるのは「交通とはなにか」「道路は誰のものか」という、制度そのものの哲学に対する理解である。だが、法改正は、交通という公共インフラの統制を市場の論理に委ねる方向へとかじを切った。ここには明確な問題がある。自動車産業が80年かけて築いた
「道路のルールと責任の体系」
は、そもそも運転者が教育を受け、罰則の下で行動するという前提のもとで構築されていた。電動キックボードのような新技術が導入された際に、なぜそれと異なる運用が許容されたのか、その説明責任は果たされていない。