トヨタC-HR、なぜ7年で消えた?――「走りのSUV」に誰も振り向かなかった決定的理由! 「ニュルで鍛えた足回り」はどこへ行った?

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「ニュルで鍛えた足回り」という言葉がかつて自動車市場で強力な訴求力を持っていた。トヨタC-HRがその象徴となり、走行性能の価値が広く支持された。しかし、時代の変化とともに、走りの優位性は次第に消費者の関心を引きにくくなり、C-HRの失速がその証となった。

C-HRの戦略と終焉

C-HR(画像:トヨタ自動車)
C-HR(画像:トヨタ自動車)

 トヨタがC-HRに託したのは、単なる新型SUVの投入ではなかった。狙いは、ブランドの刷新だった。

 デザインにはダイヤモンドをモチーフとした絞り込みの効いたシルエットと、彫刻のように緻密な面構成を採用。開発キーワードは「センシュアル スピード-クロス」。量産車でありながら、コンセプトモデルのような強い造形言語をまとわせた。

 実用重視のイメージが強かった従来のトヨタ車とは一線を画すデザインは、登場と同時に大きな話題を呼んだ。

 デザインと並び、開発陣が強く打ち出したのが「走りのよさ」だった。C-HRは、ニュルブルクリンクで鍛えた足回りを武器に、走行性能に妥協しない姿勢を前面に打ち出す。サスペンションやステアリングフィールを積極的に訴求し、燃費や利便性ではなく、運転する楽しさを価値の中心に据えた。

 C-HRはスタイルと走りの二軸で勝負をかけたモデルだった。

 この挑戦は、初期には成果として現れる。C-HRは2017年、SUV新車販売台数で首位に立った。支持層の中心は若年世代。トヨタの信頼性や燃費性能に魅力を感じつつ、そこにとどまらない走る楽しさや見せる喜びを求める層にとって、C-HRは最適な選択肢となった。

 しかし、勢いは長く続かなかった。走行性能とデザインに注力した設計は、実用性や空間効率を重視する日本の主流SUV市場とズレを見せ始める。特に

・後席の狭さ
・荷室の小ささ
・後方視界の悪さ

は、日常的にクルマを使うユーザーにとって看過できない弱点だった。

 2020年代に入ると、ヤリスクロスやカローラクロスなど、パッケージバランスに優れたSUVが次々に登場する。価格、使い勝手、装備の総合点で選ばれる時代へと市場は変化した。個性の強さがかえって敬遠されるなかで、C-HRは徐々に選ばれにくいモデルとなっていく。「特徴のある一台」より

「平均点の高い一台」

が支持される構造に変わったことで、C-HRは主流から外れていった。そして2023年。C-HRはフルモデルチェンジを迎えることなく、日本国内での販売を終了する。

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