運送業界は「腐ったリンゴ」を撲滅できるか?「改正貨物自動車運送事業法」審議も、ダンピング業者の根絶は難しいワケ

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1990年代の規制緩和で、運送会社の数は約1.5倍に増え、6万社を超えた。政府と運送業界は、過当競争を嫌い、運送会社の淘汰を進めている。しかし、その対象は「腐ったリンゴ」だけではなさそうだ。

運送業界の過当競争と淘汰

トラック(画像:写真AC)
トラック(画像:写真AC)

「悪貨が良貨を駆逐することがあってはならない」

全日本トラック協会の坂本克己会長は、運送会社の事業認可更新制の実現に強い意欲を見せている。この問題は、意外にもあまり話題になっていない。運送業界のなかでも知らない人がいるほどだ。

 いま国会では、運送業の事業認可を5年ごとに更新する制度へと変える「改正貨物自動車運送事業法」が審議されている。制度の運用にともなう新たな法律も議論の対象になっている。

 この改正案は、通称「坂本新法」と呼ばれている。施行までは3~5年の猶予期間が設けられる見込みだ。では、なぜ坂本会長はこの制度改革を目指すのか。その理由を、本人の発言から探ってみたい。

「エッセンシャルワーカーであるドライバーの賃金を引き上げるには、法令違反を行い、不当に安い運賃で運送を請け負う悪質な事業者を市場から退場させることだ」(2025年2月17日、自民党トラック輸送振興議員連盟総会)

「物流効率化法の付帯決議の中に過当競争になり過ぎておりバランスのとれた形にすることが大切と書かれている。我われに残された仕事は、適正競争をしっかりしていくこと。目的は現場のドライバーの経済的、社会的地位の向上」(2024年12月5日、全日本トラック協会 第208回理事会)

 1990(平成2)年の規制緩和で、運送会社は約4万社から6万社強に増えた。増加率は1.5倍だ。一方、国内貨物輸送量(トラック輸送だけでなく、航空・船運・鉄道も含む)は減少を続けている。1991年の69億1900万tをピークに、2023年には41億8600万t(39%減)にまで落ち込んだ。

 運ぶべき貨物が減るなかで、運送会社の数だけが増えた。これにより、運送業界は過当競争に陥った。残念ながら、運送会社には競争優位性を持つ企業が少ない。結果、トラック輸送業界は運賃の安売り競争に巻き込まれ、中小企業を中心に疲弊していった。

 坂本会長がいう「不当に安い運賃で運送を請け負う悪質な事業者」とは、常識を超えるほど安いダンピング運賃で仕事を引き受ける運送会社のことだ。また、「過当競争」や「適正競争」とは、過剰な運送会社の数を適正な社数に減らすことを意味しているのだろう。ただし、適正社数が何社なのかは明示されていない。

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