運送業界は「腐ったリンゴ」を撲滅できるか?「改正貨物自動車運送事業法」審議も、ダンピング業者の根絶は難しいワケ

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1990年代の規制緩和で、運送会社の数は約1.5倍に増え、6万社を超えた。政府と運送業界は、過当競争を嫌い、運送会社の淘汰を進めている。しかし、その対象は「腐ったリンゴ」だけではなさそうだ。

ダンピング運賃が生む経営危機

トラック(画像:写真AC)
トラック(画像:写真AC)

「運送会社が増えすぎて、ダンピング運賃を提示してでも仕事を取ろうとする悪質な運送会社がいる」

物流業界外の人にこの話をすると、よく次のようにいわれる。

「そんな経営をしていたら自滅するんじゃないの」

一般的に考えれば、その通りだ。しかし、なぜダンピング運賃を提示する運送会社は減らないのだろうか。例えば、ある運送会社(A社)は、千葉県印西市~神奈川県厚木市(約130km)の大型トラックチャーターを「帰り荷だから」と5000円で引き受けていた。標準的な運賃は5万9370円で、価格に大きな差がある(標準のわずか8%)。

 このようなダンピング運賃を提示する運送会社は、大きく分けて3パターンに分類できる。

1.経営センスや営業センスがない
2.「帰り荷がどうしても欲しい」と追い詰められている(往路の運賃が安すぎるなど)
3.営業センスに優れ、交渉材料としてあえてダンピング運賃を提示している

A社は3番目のパターンに当たる。簡単にいえば、他社のトラックを利用して運送を行い、利ざやを稼ぐ「水屋」に恩を売ったのだ。

「これで水屋に対して、貸しひとつです。いずれ、もっと大きな形で返してもらいますけどね」

と、A社の配車担当者はいった。

 もちろん、坂本会長がいうように、「法令違反を行い、不当に安い運賃で運送を請け負う悪質な事業者」も存在する。こうした運送会社は、例えば1日の売上を稼ぐために、ドライバーに長時間働かせることがある。運賃が安いため、その分、ドライバーを長時間働かせなければ売上を確保できないのだ。

 だが、A社は違う。A社は8時間の所定労働時間内で、競合他社より高い売上をドライバーに稼がせている。これができるのは、優れた交渉能力を持つ配車担当者がいるからだ。

「ダンピング運賃を提示するような経営していたら自滅するんじゃないの」という考え方は、「1」や「2」の運送会社に当てはまる。そして実際、こうした運送会社は自滅することがある。特に近年、ドライバー不足による過酷な採用競争に耐えられず、人手不足倒産に陥る運送会社も増えている。

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