北海道の鉄道政策「ダブスタ」批判は的外れ?並行在来線の廃止は、経済合理性を重視した現実的な判断だ【リレー連載】ビーフという作法(4)
鉄道維持のコストと便益の計算

鉄道の存廃を議論する際に最も重要なのは、「コストに見合う便益があるかどうか」という点だ。鉄道は社会的インフラであり、単純な利益計算だけでなく、地域経済や環境負荷などの広範な要素を考慮すべきだ。しかし、それでも一定の財政負担の合理性は求められる。
北海道が維持支援を行う黄色線区(釧網線・花咲線)と、廃止の方針を貫く山線では、経済的な条件が大きく異なる。
黄色線区(釧網線・花咲線)は地域の観光資源と密接に結びついており、インバウンド需要の増加が見込まれる。補助金を投入して利用促進策を行えば、一定の経済効果が期待できる。インフラ維持費用は高いが、人口密度が低いため道路整備の代替コストが高く、鉄道維持の意義がある。
一方、山線(小樽~長万部)は観光需要はあるものの、全線を維持するための費用が莫大だ。並行する北海道新幹線が整備されるため、二重投資を避ける必要がある。物流ルートとしての利用価値も限定的で、経済波及効果は乏しい。
「観光客が多い」
「インバウンド需要がある」
といった理由だけでは、路線維持の正当性は担保されない。重要なのは、鉄道維持に投入するコストとその経済効果とのバランスだ。
また、山線のバス転換に関しては、ドライバー不足や観光シーズンの混雑などの問題が指摘されている。しかし、これが即座に「鉄道を残すべき理由」にはならない。バスの運行コストは安価であり、必要に応じて便数を増減できる柔軟性がある。地域住民の移動ニーズは観光需要と異なり、定時性よりも利便性を重視する傾向がある。冬季の悪天候による輸送安定性は鉄道のほうが優位だが、それでも維持費用との比較が必要だ。
つまり、仮にバス転換がスムーズに進まないとしても、それは「鉄道を残すべき」という結論には直結しない。「バス運行の課題をどう解決するか」が問われるべきであり、鉄道維持のコストと比較しながら判断すべきだ。