日本企業が学ぶべきレジリエンスの源流【短期連載】なぜいま岡倉天心なのか(2)

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国際的な危機が物流とサプライチェーンのレジリエンスを再認識させるなか、岡倉天心が提唱する「柔弱の思想」と老子の「虚」の概念が注目される。変動性が増す現代、柔軟性と適応力が企業の復元力を支え、危機を乗り越える鍵となる。

柔弱が生む強さの法則

岡倉天心旧宅(画像:写真AC)
岡倉天心旧宅(画像:写真AC)

 老子のからっぽ(虚)、虚心の思想と合わせて、天心が取り入れたものこそ、「柔弱の思想」であった。『茶の本』には

「道教徒の考え方は、剣道相撲の理論に至るまで、動作のあらゆる理論に非常な影響を及ぼした。日本の自衛術である柔術はその名を道徳経(『老子』)の中の一句に借りている。柔術では無抵抗すなわち虚によって敵の力を出し尽くそうと努め、一方おのれの力は最後の奮闘に勝利を得るために保存しておく」

と書かれている。天心は、このように『老子』に基づいて、

「しなやかな力 = レジリエンスの源泉」

として、柔弱の思想とからっぽ(虚)の思想に学ぼうとしていたのである。

 天心のいう「道徳経の一句」とは

「世の中でもっとも柔らかいものが、世の中でもっとも堅いものを突き動かす。形の無いものが、すき間のないところに入っていく」(43章)

にほかならない。

『老子』には「柔弱の思想」を強調する言葉が繰り返し出てくる。

「人は生きている時は柔らかくてしなやかであるが、死んだ時は堅くてこわばっている。草や木など一切のものは生きている時は柔らかくてみずみずしいが、死んだ時は枯れて堅くなる。だから、堅くてこわばっているものは死のなかま、柔らかくてしなやかなものは生のなかま」(76章)

 そして、老子が柔弱の究極として挙げたのが、変幻自在に形を変える「水」である。

「この世の中には水よりも柔らかでしなやかなものはない。しかし堅くて強いものを攻めるには水に勝るものはない。水本来の性質を変えるものなどないからである。弱いものが強いものに勝ち、柔らかいものが剛いものに勝つ。そのことは世の中のだれもが知っているが、行なえるものはいない」(78章)

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