日本企業が学ぶべきレジリエンスの源流【短期連載】なぜいま岡倉天心なのか(2)

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国際的な危機が物流とサプライチェーンのレジリエンスを再認識させるなか、岡倉天心が提唱する「柔弱の思想」と老子の「虚」の概念が注目される。変動性が増す現代、柔軟性と適応力が企業の復元力を支え、危機を乗り越える鍵となる。

老子の思想が支える新たな道

老子『老子』(画像:岩波書店)
老子『老子』(画像:岩波書店)

 いま世界全体が変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を増しており、モビリティ産業を取り巻く環境もその例外ではない。

 既存の価値観やビジネスモデルが通用しにくくなっている今、ビジネスモデルや事業の刷新がこれまで以上に求められている。しかし、新しい取り組みや刷新には多くの困難がともなう。その点でも、組織全体のレジリエンスと、社員ひとりひとりのレジリエンスがますます重要になっている。

 こうしたなかでいま注目すべき人物が、「復元力」「適応力」を支える東洋思想の価値を再発見した岡倉天心だ。彼は『茶の本』のなかで次のように書いている。

「物の真に肝要なところはただ虚にのみ存すると彼(老子)は主張した。たとえば室の本質は、屋根と壁に囲まれた空虚なところに見いだすことができるのであって、屋根や壁そのものにはない。水さしの役に立つところは水を注ぎ込むことのできる空所にあって、その形状や製品のいかんには存しない。虚はすべてのものを含有するから万能である」(村岡博訳)

 老子は、作為がなく、自然のままの常態である

「無為自然(むいしぜん)」

を説いた、中国春秋時代の哲学者である。老子が書いたと伝えられ、今日まで読み継がれてきたのが『老子』(道徳経)である。そして、老子を祖とし、荘子らが継承発展させた思想が老荘思想であり、老荘思想を中核として神仙思想などが融合して成立したのが道教である。

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