JR東海から突然720万円の請求書! 2007年「認知症鉄道事故」から考える超高齢化社会の行方、いまや認知症行方不明者は年1万9000人という辛らつ現実
事故に対する責任論

認知症のひとり歩き問題がクローズアップされたのは、2007(平成19)年12月に起きた認知症鉄道事故裁判がきっかけだった。当時91歳の男性(愛知県在住、要介護4)が認知症と診断され、ひとり歩きした結果、JR東海の列車事故で死亡した。
その後、JR東海は遺族に約720万円の損害賠償を請求し、8年にわたる法廷闘争が繰り広げられた。一審判決が「全額支払命令」というものだったのだから、遺族はさぞ憤慨したことだろう。
世論の反響はすさまじく、この判断をよしとしなかった。世論も専門家も、裁判所が認知症介護の現実を理解していないと憤慨した。二審判決は、妻の過失が考慮され、「半額の賠償責任」が下された。遺族は当然納得せず、最高裁に上告した。8年にわたる法廷闘争の末、最高裁は遺族に「総合的な状況から考え、監督責任は無し」との判決を下した。
遺族の監督状況として、どのような措置がとられたのかを振り返る。平日は高齢の妻が介護保険サービスを利用しながらひとりで支え、長男は遠方に住んでいて週末しか手伝えなかった。主要な出入り口にはセンターを設置し、なるべく抑制せずに介護していた。
献身的な介護者であることは断言できる。高齢の妻と遠くに住む長男に責任を負わせようと思えば、夫を縛っておくしかないという声さえあった。最高裁の判決を受け、厚生労働省のワーキンググループ内の有識者見解でも「例外的な場合を除いて、認知症の人のひとり歩きに対し、家族は監督責任を問わないことが示された」とされている。
一方、JR東海側も被害を受けているため、「被害者救済」の観点からの検討も必要だ。もちろん、認知症の人が線路に立ち入らないような対策は必要だが、費用もかかる。
路線を維持するだけでも大変なのに、私鉄は認知症の人が線路内をひとりで歩かないようにするために、多額の保険金と設備投資で対応しなければならないのは、難しい。
反響の大きいことの「責任」と「対策」についても国会で議論された。政府は裁判にどう対応し、責任能力のない人の列車事故にどう対応したのか、見てみよう。