つくばエクスプレスの8両編成化「2030年代前半」 なぜこれほど時間がかかるのか?
8両編成化の投資影響

ここで気になるのは、8両編成化の設備投資支出にともなう首都圏新都市鉄道の
「財務への影響」
である。
TXPRに記載された8両編成化にともなう設備投資額は、360億円程度(税抜き、見込み)である。2023年度の同社の事業計画では、「8両編成化事業の推進」の予算額として7億円が示されている。仮に2019年度から2023年度までの各年度に7億円ずつ支出したと仮定した場合、2024年度以降の残りの事業費は325億円と計算される。2034年度に8両編成化が完了すると仮定した場合、11年間の年平均事業費は約29.5億円となる。
同社の『有価証券報告書(第33期)』によると、2023年3月期は、営業活動によるキャッシュ・フロー(CF)約193億円、投資活動によるCF約326億円で、両方を合わせた値であるフリーCFは
「約520億円」
である。フリーCFは、ステークホルダー(利害関係者)に自由に分配できるCFであり、自社の設備投資にも自由に使えるCFでもある。
投資活動によるCFの多くを占める「貸付金の回収による収入」に対応する、貸借対照表の「長期貸付金」の残高は、約260億円となっており、その多くが鉄道運輸機構に対する債権であると考えられる。
財務活動によるCFを見ると、2023年3月期では、大半が建設事業費8081億円に対応するものと推定される「長期借入金」と「長期未払金」について、合わせて約441億円を返済しており、前者は本年度にほぼ完済すると予想されるものの、後者は完済までに20年超を要するペースである。
フリーCFと財務活動によるCFを合わせた同期の現金および現金同等物の増減額は、約78億円である。2023年3月期に約238億円を計上した「貸付金の回収による収入」は年度を経るにつれて徐々に減少しているものの、ほぼ同額の「長期借入金の返済による支出」もなくなれば、資金収支に対する影響はほぼゼロとなる。
したがって、仮に年約29.5億円の設備投資による支出が増えたとしても、現状の資金収支を前提とすれば、同社が利用できる資金の範囲内でまかなえると考えられる。