旅行先で急病になったらどうなる? 飛行機使った搬送手段「メディカルウイング」をご存じか

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2023年、固定翼機を活用した「メディカルウイング」が2024年4月の本格稼働に向け、準備を進めている。いったい何を行うのか。

医学的管理が必要な患者搬送

医療のイメージ(画像:写真AC)
医療のイメージ(画像:写真AC)

 JALおよびANAともに医学的管理が必要な患者を搬送するには、事前の許可が必要だ。メディカルウイングも同様だが、地上と違い空は特殊な環境にある。JALによると次の点が地上搬送と違うとされる。

・機内気圧と気圧変化により、体内の空気が膨張
・酸素濃度が80%に低下
・振動が懸念される

 航空機が水平飛行を保つ高度における気圧は0.8気圧。気圧が低下すると、体内の空気は膨張する。膨張した空気や体内のガスが内蔵や患部を圧迫することで、呼吸困難や中耳炎になることもある。

 また、空気も薄くなるため、酸素濃度も低下する。その差は地上と比較すると80%に低下する。健常人なら問題ない範囲でも、重症患者は肺から空気を取り込む肺機能が低下している場合もあり、急変リスクも高い。酸素供給体制を整えておくのが重要となる。

 航空機は整備された道路を走行するわけではない。空気の渦、つまり乱気流による機体の振動も考慮する必要がある。当然、パイロットは雨雲レーダーを用いて振動の少ない空路を設定するわけだが、振動をゼロにすることは困難だ。

 重症患者の場合だと「人工呼吸器などの医療機器が倒れて故障しました」は命に関わる。患者固定に加え、医療機器や患者の点滴ラインの固定も考慮が必要だ。

 航空搬送前に「空」の変化と患者の状態を主治医と航空会社が事前に確認し、所定の手続きを踏まえ、陸路と空路の手配を実行する。患者が座ることが困難だとストレッチャー(車輪がついた簡易型のベッド。主に搬送用に利用する)にて搬送することになる。料金は通常料金に割増運賃を加えた額だ。

 陸路搬送においては、民間救急の搬送サービスや救急車の利用を依頼することもある。こうして、搬送元の病院から陸路を経て、航空機へ。機内搭乗時もストレッチャーによる搭乗は特殊な搭乗方法をとる。再度、陸路にて搬送先の病院や施設、自宅に向かう。

 患者の状態や空の特殊な環境。長時間輸送などあらゆるリスクと対処法を検討し、緻密な計画を立て、患者輸送は実施される。医療従事者と大手航空会社が共同する“命の翼”だ。

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