「キセル = 犯罪行為」なのになぜ平気でいられるのか しかも、かつては「キセル研究会」まで存在していた!
現在では信じがたいことが、かつてはキセルをはじめとした不正乗車を正当化する風潮があった。その歴史を振り返る。
かつては「多少なら…」の風潮

1月10日、大阪市の男(67)が詐欺容疑で逮捕された。男は2022年12月、JR新大阪駅の窓口で構内入場証をだまし取り、新幹線に無賃乗車したという。その手口は、窓口で「大阪地検特捜部の検察官」を名乗り、自作の「身分証」(もちろん偽物)を提示して、駅職員を信じ込ませるという手の込んだもの。男は、翌日これを利用して東京発新大阪行きの新幹線に無賃乗車したとされているが、そこまでして東京に出かけたかった理由は謎だ。
区間の連続しない2枚の乗車券を使用する「キセル」など、鉄道での不正な乗車は後を絶たない。ただ、自動改札の普及と共に、かつてほど大規模には行われていないと考えられる。
不正乗車は明らかな犯罪行為である。ただ、筆者(弘中新一、鉄道ライター)の実感では、2000年代初頭までは「多少なら運賃をごまかしても構わない」という風潮は根強かったと思う。
大学生であれば、近距離を移動する時にキセルを行う者は珍しくなかったし、名古屋や京都、大阪から東京といった長距離の移動でも、キセルを行う手法を伝授する者がいたという。だが、筆者の知る限りでは、身近な範囲で捕まった事例は聞かない。この「そうそう捕まることはない」ことに加えて「たとえ捕まっても運賃の3倍を払えば、逮捕されない」といった一種の気楽さ(もちろん、実際には逮捕されることもある)が、不正乗車に手を染める者がいた理由だと思う。
とにかく、2023年の現在では信じがたいことが、21世紀の初頭くらいまで、キセルをはじめとした不正乗車は、「悪いことだとは思うが、運賃が高いから」と正当化される風潮があったのである。