「キセル = 犯罪行為」なのになぜ平気でいられるのか しかも、かつては「キセル研究会」まで存在していた!
「正当なる消費者運動」主張も

このように多くの乗客があの手この手で、運賃を払わずに済む方法に考えを巡らせていた時代。その方法を伝授する組織もあった。その名も「キセル研究会」。要するに、いかにして国鉄にタダ乗りするかを実践する団体で、『でいすかばあ・きせる』という会報を発行し、実践方法を全国から集めていた。
むちゃな集まりであるが、『アサヒ芸能』1974(昭和49)年12月5日号では、メンバーが堂々と顔出しでインタビューに応じている。記事によれば、この研究会はキセルの難度によって「段」や「級」を設けて認定証を発行していたという。その認定はなかなかに厳しく、改札口を切符なしで通り抜ける程度では2級、3級止まり。初乗り料金で日本一周に成功したら段位がもらえるという具合だ。彼らの研究によれば、困難なのは、改札よりも車内検札をごまかす方法だとされている。
そこまでして運賃を払いたくない研究会の目的は何か。それは「正当なる消費者運動」だと、雑誌『流動』1973年2月号にキセル研究会名義で掲載された「不正乗車のすすめ」の中で、彼らは主張している。いわば「犯罪者の自己正当化」を堂々と雑誌の紙面を使って掲載しているわけで、現代ならば大炎上しそうだ。当時でも『構造』や『現代の眼』と並ぶ左翼総会屋雑誌の代表格だった『流動』だから掲載された感はある。
この中でキセル研究会は、次のように主張する。
「国鉄はまったく一方的に、料金・規則などを決めて私たち利用者に提示してきています」
「乗客にある”キセル乗車”という武器をおおいに利用し、国鉄に反省させて私たち利用者――国民のための鉄道にするのです」
「国鉄が赤字だというのに、キセルをするなどとはもってのほかだ!というような意見もあると思います。でもそれはあまりにマスコミの悪影響をうけすぎた意見なのです」
このように、彼らはあくまで、国鉄のシステムに反抗する社会運動として不正乗車を行った主張している。ただ、その運動論をどれだけの人が理解していたかは謎だ。
繰り返しになるが、昔も今も、不正乗車は犯罪行為である。しかし、かつては、「多少なら…」という意識を持つ者が多かったのも確かだ。不正に対するあの意識の軽さは、いったいなんだったのだろうか。