東京都は箱物行政を今すぐ止め、「船で通勤」のインフラ整備に注力すべきだ

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自動車輸送が普及する以前、貨物・旅客双方における輸送手段の花形は、水運であった。東京都は今、東京2020オリンピック・パラリンピックのレガシーとして、舟運による人の移動を再現しようとしている。

ニュータウンにおける舟運のメリット

 筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は、ベイエリアのような、急に住宅が建設され、住民が急激に増加するニュータウンにこそ、舟運のようなインフラが適していると考えている。その理由を、過去のニュータウンがたどってきた変遷から説明しよう。

 国土交通省は、昭和30年代後半から昭和40年代にかけて整備された千里ニュータウン(大阪府豊中市・吹田市)と明石舞子団地(兵庫県神戸市・明石市)を例に、ニュータウンについて以下の課題を挙げている。

1.同じような年齢構成の人々が一斉に入居したことに伴う、住民の高齢化
2.住宅等の老朽化
3.バリアフリー化の遅れ
4.近隣の生活インフラ(ショッピングセンターや公共施設等)の老朽化や衰退
5.小中学校の遊休化

 筆者は、都市計画をニュータウン開発時点ですべて絵図に描き切ろうという発想に無理があったと考えている。10年後、20年後、あるいは50年後や100年後の都市計画は、その時点での最新技術等に委ね、柔軟性のある都市計画と絵図を描くことこそが、本当の意味でサステナブルな都市計画ではないか。

 その点、舟運は都合が良い。なぜならば、もともと東京は水路が整備されているからだ。徳川家康が江戸幕府を開府した頃、現代の千代田区、港区、中央区、江東区といった辺りは湿地帯が多く、決して人が住みやすい場所ではなかった。徳川幕府は、利根川を東遷させ、大川(現在の隅田川)を整備し、土地改良と街づくりを進めていった。

 江戸の街の整備に伴い、水路も整備された。人々は水路を使って、旅客輸送・貨物輸送の双方を担う物流網をつくり上げていったのだ。

 今でこそ、舟運は主要な交通インフラから外れてしまっているが、東京の水路は江戸幕府以来、脈々と整備され続けてきた交通インフラである。水路を活用したほうが、現時点では早く、そして低コストで交通インフラを構築することができるはずだ。

 またニュータウン問題などを考えたとき、維持運用に多大なコストがかかる鉄道よりも、時代の趨勢(すうせい)に伴った弾力的な運用が行いやすい船やバスなどによる運用のほうが、負の遺産として後世の世代に負担をかけるリスクは少ないはずだ。

 もちろん、舟運は、鉄道・バスなどに変わる完全な代替にはなり得ない。台風などの荒天によって運行できないケースもあるからだ。だが、それはある意味、ベイエリアに住むことを選んだ人たちが、負うべきリスクとも考えるべきではないだろうか。

「東京ベイeSGまちづくり戦略2022」には、このような一節がある。

「ポストコロナを見据え、グリーンとデジタルを基軸として、『都市づくりのグランドデザイン』を踏まえ、サステナブル・リカバリーの考え方に立脚した次世代の都市づくりを進めていくための行政の取組や民間誘導の方策を示している」

 これを実現するためには、昭和の頃から批判され続けてきている「箱物行政」を改めて、古くて新しい舟運に再び光を与えるべきだと思う。

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