JALが大嫌いだった稲盛和夫 窮地を救った事業再生で「人をだますな」と言い続けたワケ

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京セラの創業者・稲盛和夫はJAL再生にいかに取り組んだのか。そして、最も大事にした経営哲学とは。

ANA派だった稲盛和夫

日本航空のロゴマーク(画像:日本航空)
日本航空のロゴマーク(画像:日本航空)

 2022年8月に亡くなった稲盛和夫は京セラの創業者であり、KDDIの前身となるDDI(第二電電)を立ち上げ、さらには日本航空(JAL)の再生に道筋をつけた日本を代表する経営者である。

 今回紹介する大西康之『稲盛和夫 最後の闘い』(日本経済新聞出版社)は、日経新聞の編集委員だった著者がJAL再生に取り組む稲盛の姿を描いたもので、元記者が書いたものらしくさまざまなエピソードを交えながら、稲盛の最後の闘いについて軌跡を追っている。

 JAL再建に際して、稲盛に白羽の矢が立ったのは当時の政治状況も影響している。JALが経営破綻した2010(平成22)年1月はちょうど民主党への政権交代が実現した直後であり、民主党が頼りにできる財界人は少なかった。

 当時の国土交通大臣の前原誠司は京都選出の議員で稲盛との付き合いが深く、稲盛しかないとの思いで説得にあたった。また、当時の民主党幹事長の小沢一郎も稲盛と付き合いがあり、この関係も大きかったという。実はJALが大嫌いで、国内出張もANAで行っていた稲盛だったが、結局は破綻したJALの会長を引き受けることになる。

 連れて行った部下は、「アメーバ経営」の伝道師とも言われる森田直行と「フィロソフィ(経営哲学)」を伝える役割を担った大田嘉仁(よしひと)のふたり。のちに三田工業の再建にも携わった米山誠も加わるが、再建チームというには少なすぎる人数でJALに乗り込んだ。

 稲盛の経営の肝は、アメーバ経営とフィロソフィである。ただし、アメーバ経営の重要性はわかるが、フィロソフィについてはよくわらないと感じる人も多いだろう。実際、JALの幹部たちも、稲盛が

「利他の心を大切に」
「ウソを言うな」
「人をだますな」

といった、小学校の道徳の教科書に出てくるようなことを説きつづけたことに違和感を持ったという。

 ところが、本書を読むとアメーバ経営を行う上での基盤としてフィロソフィが必要になるということもわかってくる。

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