戦争のプロはロジスティクスを語り、素人は戦略を語る 「軍事ロジスティクス」から考える世界戦争史

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ウクライナ侵攻以降、一般的に知られるようになった「軍事ロジスティクス」。今回は軍事ロジスティクスから世界戦争史を考える。

変化するロジスティクスの限界

砲弾の補給(画像:ウクライナ国軍参謀本部)
砲弾の補給(画像:ウクライナ国軍参謀本部)

「戦争のプロはロジスティクスを語り、戦争の素人は戦略を語る」と言われる。

 1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争でもそうだったが、テレビなどメディアでは最前線の戦いの場面ばかりが話題にされ、アメリカ本土やヨーロッパなどから中東地域まで軍隊を移動させ兵士に糧食や水を提供し、必要な武器および弾薬を運搬するという、戦いの基盤となるロジスティクスあるいは兵站の側面はほとんど注目されなかった。

 だが、仮にロジスティクスが機能不全に陥れば、いかに世界最強のアメリカ軍や多国籍軍(有志連合軍)といえどもほとんど戦えないのだ。

 実際、歴史を振り返ってみれば、戦いの場所や時期、規模を少なからず規定してきたのはロジスティクスの限界あるいは制約だったことが理解できる。湾岸戦争やイラク戦争で、とりわけアメリカ軍はいとも簡単に最前線まで兵士や物資を移送させたように見えるが、それが可能だったのは同国軍が中東地域へと至るロジスティクスの線(ライン)――例えばシーレーン――を確保し、それを維持し得たからだ。

 もとより、ロジスティクスの限界は時代とともに変化する。例えば、有名な古戦場の位置を地図で確かめてみれば、ほとんどが河川や運河の近くである事実に直ちに気が付くだろう。大量の兵士や物資を移送するには昔は河川や運河に頼るしか方法がなかったからだ。河川沿いにロジスティクス拠点を設けて、そこから行動可能な範囲内で戦ったのである。

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