「脱炭素」教にひれ伏す欧州自動車業界! 日本は追随すべきか、それとも独自路線を歩むべきか

キーワード :
, , , ,
EU加盟27か国の環境大臣は6月29日、「2035年欧州での新型エンジン車の販売禁止」に合意した。EU当局はこれを受けて「大勝利」と評したが、本当に正しいのだろうか。

気候中立燃料とは何か

トウモロコシ(画像:写真AC)
トウモロコシ(画像:写真AC)

 まず、ドイツが今回提案した気候中立燃料の概要を説明しよう。

 気候中立(CN、Climate Neutral)とは、「ゼロ排出」とは異なる概念だ。例えば、トウモロコシなどを原料とするバイオ燃料は、燃焼時には二酸化炭素(CO2)を排出するが、植物時代に光合成の過程でCO2を吸収しているため、

「プラス・マイナスゼロ = 気候中立」

と扱われるのだ。

 ただ、バイオ燃料の原料は食料でもあり、世界的な人口増加を考えると、バイオ燃料の大規模な増産は考えられていない。

 原油を分留して製造されるガソリンやディーゼル、灯油は、炭化水素(CH)からなる有機化合物で、燃焼するとCO2を発生する。ドイツが提案した合成燃料は、CO2と水素(H2)を化学的に合成して製造する燃料で、発電所や工場などから排出されたCO2や、将来的には大気から直接回収されたCO2を原料として消費するため、気候中立として扱われる。

 H2は再生可能エネルギーで、水を電気分解したグリーン水素を使うことが理想だ。合成燃料は世界各国で研究が進んでおり、フォルクスワーゲンやアウディAG、ポルシェでは、試作設備が既に稼働している。

合成燃料は救世主となるのか

合成燃料におけるCO2の再利用のイメージ(画像:経済産業省)
合成燃料におけるCO2の再利用のイメージ(画像:経済産業省)

 経済産業省の合成燃料研究会によると、合成燃料の利点は次のとおりだ。

●エネルギー密度が高い
 液体の合成燃料は、リチウムイオン電池と比較して、体積密度は20倍以上、質量密度は30倍以上あり、航続距離が同じなら車を軽くでき、質量が同じなら、航続距離を長くできる。

●既存エンジンと給油インフラが使える
 エンジンや給油設備は現状の流用、あるいは小改良で合成燃料を使用することができる。

●既存車両のCO2を削減する
 2035年以降、新型エンジン車の販売は禁止されるが、それ以前に販売されたエンジン車の使用は可能だ。EU27か国の2017年の自動車保有台数は2億3000万台、イギリスを含めると2億6100万台近くのエンジン車が2035年までは走行し、欧州自動車工業会(ACEA)による2019年の平均保有年数は乗用車が11.5年、小型商用バンが11.6年、トラックが13.0年のため、2046年ごろにエンジン車はやっと姿を消す。この間エンジン車に合成燃料を使用することで、CO2を大きく削減することができる。

●大型トラック、船舶、航空機でも利用
 大型トラックは積載荷重の減少、船舶や航空機も大幅な質量増加によりバッテリー電動化は困難だ。仮に次世代電池で出力密度が10倍になっても、まだ合成燃料が有利だ。

●エネルギー安全保障
 国内で製造、常温・大気圧で長期保存が可能で、エネルギー安全保障面で有利。

 一方、EUの気候局長であるフランス・ティマーマン氏は合成燃料の課題について、

「現時点では現実的な手段には見えないが、自動車産業が近い将来(026年)そうでないことを証明するなら、われわれは受け入れるだろう」

と語っている。

 合成燃料はいくつかの製造方法があるが、いまだ研究段階であり、そのコストは、経済産業省のベストシナリオで200円/l、ワーストシナリオで700円/lと高価だ。原料である水素のコスト比率が高く、2026年までにどの程度まで低減のめどが付くのかは不透明だ。

 なお、2026年とは、2035年に量産可能とするための生産準備を踏まえた判断期限を意味している。

全てのコメントを見る