ジャカルタMRT建設、「オールジャパン体制」に暗雲 現地に漂う日本への失望とは

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ジャカルタのMRTは2012年に着工し、2019年に開業した南北線フェーズ1を皮切りに、現在は2027年頃の一部開業を目指して、南北線フェーズ2Aが日本のODAで建設中だ。しかし、そこに暗雲が立ち込めている。一体何が起きているのか。

開業区間で起きた変化

インドネシア初となる信号システムと連動した日本仕様の発車標。開業当初は両数も表示していた(画像:高木聡)
インドネシア初となる信号システムと連動した日本仕様の発車標。開業当初は両数も表示していた(画像:高木聡)

 既に開業しているフェーズ1区間でも、こんな変化が起きている。

 例えば、駅の発車標。当初から設置されているものは、日本の駅でもおなじみの、2段式の発光ダイオード(LED)表示機だが、設置台数が少ないために、後からMRTJ社が独自に液晶画面式の表示標を追設した。

 信号と連動した運行管理データを活用しているのは同様のようだが、同一の行き先、種別の電車が連続して来るだけの路線であれば、初めからこのような簡易なものでも良かったわけである。何も全て日本と同じにする必要はない。

 また、1か月ほど前から、元々ある自動改札機の前に、日本でいう簡易改札のようなICカード読み取り機が新たに追加で設置されている。

 現在、MRTJ社では他社線やバスとのICカードおよびQR読み取り決済アプリとの共通利用化を進めているが、開業時に設置された日本仕様の自動改札機は、これに対応していない。完全に日本規格で固められているため、読み取り部分を改修するには、日本の業者に頼むしかなく、莫大(ばくだい)な費用がかかる。そこで、全ての決済システムに対応した現地製の読み取り機を設置し、自動改札機のフラップ開閉回路のみ接続して、独自に改修した。

 このような背景を考えれば、信号やAFC関連(運賃授受)システムを中心として、他国のものを検討するのも納得ができる話であるし、今回、アルストムやタレスとの覚書を締結したのにも合点がゆく。

UKEFが約2030億円の融資を表明

日本仕様の自動改札機の手前に別の読み取り機が設置された。一番手前のは先にQR決済に対応するために設置されたもの。(画像:高木聡)
日本仕様の自動改札機の手前に別の読み取り機が設置された。一番手前のは先にQR決済に対応するために設置されたもの。(画像:高木聡)

 実は、東西線事業に対して、1990年代後半にフランスの政府系鉄道コンサル・シストラもF/Sを実施している。これを考慮すると、東西線はヨーロッパ仕様で建設されてもおかしくはなかった。

 また、現ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)政権は、大型インフラプロジェクトで政府債務を作ることに極端に後ろ向きである。よって、東西線の本体部分を円借款で実施するのかどうかは長らく不明瞭で、民間投資を募ったPPP(官民連携)方式での建設も視野に入れられていた。よって今回、ヨーロッパ資本を活用した、より好条件な融資をCross Rail Internationalから提案された可能性がある。

 現に、その訪英から約1か月後、英国輸出信用保証局(UKEF)がMRTJに対し、12億5000万ポンド(約2030億円)の融資を表明した。加えて、現ジョコウィ政権は2024年に任期満了で、選挙により新しい大統領が選出されるが、次期大統領の有力候補こそが、他でもないアニス・バスウェダンジャカルタ特別州知事である。インドネシアの大統領の最大任期は2期10年である。

 そのため、5年以内にさまざまなプロジェクトの完工が求められる傾向にある。そうであるならば、東西線の着工に向けて水面下での準備を進め、大統領就任後すぐに着工、1期目が終わるまでに完成させたいというのは自然な成り行きである。

 特に中国寄りと批判されるジョコ・ウィドド路線との差別化という意味でも、イギリスからの支援は好都合である。南北線ですら遅々としてプロジェクトが進まない中、このまま日本に任せておけば、東西線は一体いつになれば着工できるのかと思われても仕方ない。

 一首長たるアニス知事が、国家プロジェクトに匹敵する巨大プロジェクトの代表者として交渉の最前線に立つというのは極めて異例と言わざるを得ないが、ポストジョコウィの座を射止めるべくしたたかさと、日本への失望がある。同氏は前アホックジャカルタ特別州知事に比べ、南北線建設には協力的であったばかりに、非常に残念な結果である。

 もっとも、複数の州にまたがり、かつ90kmという長大な路線を円借款だけでカバーするというのには、予算的にもスキーム的にも難しい部分があると指摘されている。

 イギリスが融資する12億5000万ポンドが将来的な延長部分のみに使われるという可能性もあるが、いずれにせよ、今回、アルストム、タレスという具体的な企業名が出てきた以上、最初の着工区間を完全な日本の規格で作るのか、海外メーカーも使った折衷の規格で作るのか、今後議論されることになるだろう。

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