ジャカルタMRT建設、「オールジャパン体制」に暗雲 現地に漂う日本への失望とは
渡英・渡仏で取り付けた建設協力

2022年5月、ジャカルタ特別州知事のアニス・バスウェダンとMRTジャカルタ(MRTJ)ウィリアム・サバンダル社長が欧州へ飛び立った。行き先はイギリスとフランス。この訪問で、英Cross Rail Internationalと仏アルストムおよびタレスから、MRT東西線建設に関わる協力を取り付けた。
前者は同国運輸省傘下の政府系鉄道コンサル会社である。アルストムは、2021年にボンバルディアの鉄道部門(ボンバルディアトランスポーテーション)を合併し、世界第2位に躍り出た、言わずと知れた巨大鉄道メーカー。
航空宇宙、防衛分野大手のタレスは、鉄道関連では信号・通信を中心とした交通システムの分野で世界的に著名なメーカーである。なお、タレスの交通システム事業は日立の子会社、日立レールに買収されることが既に発表されている。
MRT建設、オールジャパン体制に暗雲

インドネシアの首都・ジャカルタの大量高速輸送(MRT)は2012年に着工し、2019年に開業した南北線フェーズ1(ルバックブルス~ブンダランHI:15.7km)を皮切りに、現在は2027年頃の一部開業を目指して、南北線フェーズ2A(ブンダランHI~コタ:6.3km)が日本の政府開発援助(ODA)で建設中である。
これまでに南北線事業へ供与された円借款総額(供与限度額ベース)は、およそ1900億円にのぼる。これらは日本タイドの調達条件とされ、オールジャパン体制での鉄道パッケージ輸出の初の事例として注目された。日本タイドとは、当該プロジェクトに対し、日本の企業しか応札できないという仕組みである。
これを弾みに、東西線事業に関しても事前準備調査(F/S)を終えている。東西線は、バララヤ~チカランを結ぶ90kmにも及ぶ路線であり、ジャカルタ特別州のみならず、隣接するバンテン・西ジャワ両州にまたがる。
このうち、ジャカルタ特別州内で完結するカリデレス~ウジュンメンテン間約32kmのうち、先行区間のカリデレス~チェンパカバル間、約20kmの基本設計および入札補助に対して、19億1900万円を上限とする円借款契約(一般アンタイド)が2015年に結ばれている。当然この流れで、本体部分についてもオールジャパン体制での着工が期待されていたが、どうやら一筋縄にはいかないようである。