ジャカルタMRT建設、「オールジャパン体制」に暗雲 現地に漂う日本への失望とは
「本邦技術活用案件」の功罪

なお、あらかじめお断りしておくが、これを安易に「インドネシアがまた裏切った」などとは考えてもらいたくない。
基礎調査やF/Sだけ実施して、本体着工がなされなかったプロジェクトも多く存在する。先のジャカルタ~バンドン高速鉄道にしても、時期尚早とインドネシア側は乗り気ではなく、国家戦略プロジェクトにすら入っていなかった。しかし、日本が売り込みを続けたので断るに断れなくなった。そこに、政府債務を求めない中国が現れたことで、渡りに船と中国案に流れたわけである。
そもそも、MRT南北線事業がオールジャパン体制で着工できたのは、日本タイドという特別な調達条件のおかげである。だから「ひも付き案件」として、世界から少なからず批判の声がある。
しかし、門戸を世界に開いた一般アンタイドでは、円借款を供与しても海外企業が受注するということが往々に発生する。そこで、2002年に本邦技術活用案件と呼ばれる枠組みが作られ、再び調達条件が日本タイドとなる例が増えてきた。
「わが国の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術移転を通じてわが国の『顔が見える援助』を促進するため」
と紹介されているこの枠組みだが、皮肉にも「日本の優れた技術やノウハウの活用」に限定することが、足かせになっている。
MRT、遅延とコストアップに警戒

現在、工事が進められている南北線フェーズ2Aであるが、そのうちCP202と呼ばれるハルモニ~マンガブサル間の土木工事一式の施工業者がいまだに決まっていない。
企業だって高い技術を安売りしたくはない。複数回に渡る入札が応札者なしで不調に終わっている。現在、随意契約に切り替え、施工業者の選定に入っている模様だが、コスト増になるため、MRTJ社側との調整が難航している。
また、ちょうど中間区間となるCP202の受注業者が決まらない限り、CP205(軌道・通信・信号)、CP206(車両)、CP207(AFC:自動改札機・駅務システム等)の入札準備も進められない。このため、当初予定されていた2025年の開業には間に合わなくなり、現在では早くとも2027年、実際にはそれ以降になるものと予想されている。
CP205以降も、順調に受注業者が決まるかわからない情勢であり、MRT側は今後、さらなる遅延とコストアップにつながる可能性があると、警戒感を示している。それどころか、より安価な他国製システムの導入をMRT側は検討しているという話も漏れ伝わって来る。
ただし、本邦邦技術活用案件に指定されている南北線事業は、日本タイドの調達条件となるため、基本的に日本企業が調達する製品しか採用できない。厳密に言えば、日本の商社が他国製のものを入れることは可能であるが、当然、直接調達するよりも高くつく。
もし、他国製品や自国のシステムをより安価に入れることを推進するのであれば、一部のパッケージを円借款から外し、ジャカルタ特別州やMRTJ社で資金を確保し、独自に製品・システムを調達する必要が出てくる。後になって一部パッケージを円借款で賄うのをやめた事例と言うのは過去にも存在する。