杉並区で初の女性区長 争点だった区内「道路拡幅計画」の行方どうなる? 大切なのは利便性か、街のプライドか
土地所有者が嫌う「公共減歩」とは

しかし、大正末期・昭和初期から発展を遂げた住宅街・杉並は当然ながら現代に不適応な部分があり、それが町の発展にブレーキをかけているとも指摘される。例えば、自動車が一般的に普及するのは昭和30年代後半からだが、それまでの道路は自動車が1台通れるレベルの幅員で十分だった。
現在、自動車がすれ違えるレベルの幅員が求められていることは言うまでもなく。幹線道路にいたっては大型のトラックが頻繁に行き来でき、歩行者の安全確保が図れるように歩車分離なども進められている。
そのほか、多くの人が滞留する駅前はロータリーや広場の整備が欠かせない。交通動線が悪いと不用意に人が滞留し、それは事故を誘発する原因にもなる。
こうした道路整備は、マイカーが普及した高度成長期以降に各地で積極的に取り組まれた。政府だけではなく、都道府県や市町村が道路整備に力を入れていた。そこには、マイカーの急増による交通渋滞対策という名目もあったが、交通安全を図る目的も含まれていた。
杉並区を発展に導いた耕地整理法は1949(昭和24)年に廃止され、それに替わって土地区画整理法が1954年に制定された。高度経済成長期の道路整備は、土地区画整理法とともに街を大きく変えていった。
耕地整理法も土地区画整理法も目指す理念はほぼ同じだが、前者が農地を重点的に整備したのに対して、土地区画整理法は住宅地に軸足を置く。
耕地整理によって早くから住宅地の整備が進んでいた杉並区では、土地区画整理法による住宅地を再整備する機運は芽生えにくかった。それは、土地区画整理で生じる公共減歩に一因があるとされる。
公共減歩とは、区画整理において道路や公園といった公共用地を確保しなければならず、それを目的として個人が所有する土地は半強制的に提供させることをいう。
土地を所有する個人にとって、公共減歩は所有地の面積が減少することを意味する。行政は区画整理することにより土地の価値が高まることをうたった。むちゃくちゃな論理だが、公共減歩は財産権の侵害にはあたらないとされる。
商業地や賃貸経営者だったら土地の価値が上がることにメリットはあるだろう。しかし、個人住宅では土地の価値が上がってもメリットはほとんどない。むしろ、公共減歩によって宅地面積が減るのだからマイナスでしかない。こうした事情も、住宅街が形成されていた杉並で区画整理が進まない一因といわれる。