「中国なしでは走れない」米国が認めた日――フォードCEOが踏み切った、歴史を逆転させてでも中国資本を招き入れる「生存への執念」

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米国で新車平均価格が5万326ドルに達するなか、トランプ政権は中国資本との合弁で低価格車供給を模索する。4月の米中首脳会談が、市場と産業構造の大転換を左右する。

規制緩和との交差

自動車の温室効果ガス排出規制の撤廃を発表したトランプ米大統領(画像:ホワイトハウス)
自動車の温室効果ガス排出規制の撤廃を発表したトランプ米大統領(画像:ホワイトハウス)

 トランプ米大統領は2026年2月12日、これまで温室効果ガスが人の健康や福祉に被害を及ぼすと認めてきた政府判断を白紙に戻した。規制撤廃により新車価格を3000ドル下げられると主張し、米環境保護局も規制にともなう費用を1.3兆ドル削減できると試算している。

 さらに、政権は18日、EV生産を促す燃費計算規則の廃止を決定した。企業別平均燃費基準(CAFE)でEVの燃費を実態より高く換算していた「燃料含有係数(FCF)」が削除される。環境団体は「環境効果を過大評価している」と批判し、控訴裁も違法性を指摘していた規定である。これによりメーカーは、EV生産による燃費目標達成の恩恵を失う。バイデン前政権が推し進めたEVシフトは終わり、ガソリン車支援が政策の中心となる(『ロイター』2026年2月19日付け)。

 こうした規制緩和に、中国資本の参入によるコスト低減が重なることで、米国市場の車両価格は圧縮される余地が大きくなる。環境保護という建前を捨て、低価格車両の供給に徹する政策転換は、環境政策の後退と価格政策の徹底が同時に進む異例の事態を生んでいる。EVはもはや地球環境を守る技術ではなく、大衆の支持を得る安価な工業製品へと変わった。

 中国資本の合弁参入は、北米の部品サプライヤーに供給網の全面的な組み換えを迫る圧力にもなる。圧倒的なコスト力を持つ中国系サプライヤーの前で、既存企業は支配下に降るか、あるいは主流市場から外れたニッチ領域で生き残るか、過酷な選択を迫られる。

 全米自動車労働組合(UAW)も、当面の雇用を守るため中国企業の指揮に従うという実利優先の状況に置かれ、技術流出との間で揺れ動く。最も懸念されるのは、車両の開発や技術の主導権が中国に移り、米国の製造現場が組み立て拠点へと変質する知的空洞化である。

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